なぜ「豊橋は未開の地」発言が大炎上してしまったのか
(Wiki)
愛知県豊橋市が話題だ。X(旧Twitter)上で、この豊橋について「未開拓の地」と呼び酷評したポストが炎上状態になっている。投稿者はメガバンク出身といい、地方勤務を敬遠する若者に向け東京から豊橋に左遷された自身の経験をユーモラスに語っている。
当該の投稿そのものの引用はここでは割愛するが、内容は以下に辺鄙な場所で不便化という批判や現地の人々に対するいわゆる「マイルドヤンキー」批判である。Xでは10年以上前からずっとこの手の地方叩きは盛り上がる傾向があるのでインプレッション稼ぎによく用いられてきたが、今回の件は特に炎症が激しいように見える。いつものようなネットの片隅が生き場所の匿名ユーザだけの盛り上がりではなく、地元ゆかりのスポーツ選手が自撮りをあげながら反応するなど「顔の見えるアカウント」にもリーチしているほどだ。
ここで言及する地名は、地方都市ならどこでもよかったのかもしれない。地名を伏せても良かっただろうし、日本本土の最果て感のある青森でも鹿児島でもよかっただろう。しかしなぜ豊橋だと炎上してしまうのか。それは地方都市の中でも豊橋がビミョーな場所であるからに他ならないのだ。
「中部で11番都市」未開扱いに地方人は動揺
(Wiki)豊橋市は愛知県の南東部に位置している。名古屋までは70km離れており、新幹線「ひかり」で最速19分、鈍行なら1時間超離れているため、名古屋市のベッドタウンとはなっていない。山を越えた先に岡崎があり、その先も田んぼ地帯の合間に町がポツポツあるような環境が広がっている、典型的な非大都市の地方環境の中にある地方都市だ。
しかしそうはいっても地方の中ではけっして都市規模が小さなものではないのも事実である。市の人口は約36万人で、これは広い中部地方の中では11番目に多い。他地方で考えても、東北地方の第二の都市・福島県郡山市が32万と考えると決して小さな規模ではない。
また名古屋のベッドタウンとなれなかった代わり、豊橋を中心に周辺自治体が集まる独立した都市圏を築いている。それによると豊橋の都市雇用圏人口は全国29位で、北関東の水戸や九州第二の鹿児島を上回るという。地方都市としては規模がある部類なのである。
最新の2020年データにもとづく都市雇用圏の人口TOP30
— とちりぬる (@tochirinuru) April 23, 2024
TLで話題の豊橋都市圏は全国29位。 pic.twitter.com/RSi2ISgW5u
周知のようにトヨタの本社もある愛知県は産業が盛んな地域である。東名間の恵まれた地の利を生かし、産業都市として栄えてきた歴史を持っている。豊橋に本社や拠点を構える企業は多く、そのためにメガバンクの支店も進出している。本当に田舎なら、県庁所在地でもなければ地銀や信用金庫しかないはずだ。
つまり地方の人たちからすれば、豊橋は立派な方の都市の部類になる。豊橋市民やそれと同等の都市の人たちにとっては未開の地と呼ばれることは心外であるし、まして郡部の、たとえば農村や離島レベルの人たちからすればここが未開扱いなら自分たちはどうなるんだという思いになるのである。愛知とて山間部は過疎地があり、そうした集落に住む人は、週末などに日帰りできる最寄りの街は豊橋になるのだ。
都会人から見れば「多摩センターレベル」は事実
豊橋駅前の寂れ具合は多摩センターの比ではありません。
— あわ・みかわ (@awamikawa) April 23, 2024
例の豊橋支店は広小路3丁目という豊橋駅から徒歩8分の立地ですが、広小路で人通りがあるのは1丁目までで、そこから先はシャッター街になっています。
豊橋はクルマ社会なので、郊外のほうが栄えているのが実情です。 pic.twitter.com/ZuMLMX08Kt
一方で、地元東三河地方とみられる人からも、もとの投稿に理解を示すものもある。ある人物は、豊橋が「多摩センターくらいの感じ」という元の投稿に対し、豊橋駅が新幹線も停車するのに利用者が9万2千人と、多摩センター駅の12万8千人に満たない事実を指摘。それに対する反論についても、豊橋が寂れているという事実を突きつけている。
首都圏出身者にとっては、自分たちが慣れ親しんだ常識を共有する環境として大都市圏に属していることはマストだ。関西はもちろん、札幌、仙台、名古屋圏や福岡市周辺が限界と言えるだろう。そしてそれは、郊外も含めて電車での行き来が盛んで、駅前に市街地が賑わってる環境が当たり前ということでもある。
そうした大都市出身者からすれば、駅前がシャッターアーケード化して街に活気がないということはカルチャーショックである。何をするにも車移動で、幹線道路沿いのイオンモールのような場所以外に買い物に行ける場所もない、娯楽が全国チェーン店のロードサイド店舗しか見当たらないという環境は地獄のように感じるのも無理はないと言える。
豊橋の名誉のために言えば、通えないとはいえ名古屋方面からくるJRや名鉄の電車が高頻度に走っているし、地方都市では珍しく路面電車が存続しているし、地方都市としては公共交通環境はいい方である。駅前も店は何もないというほどではなく、同規模の自治体でももっと悲惨な地方都市は幾らでもある。それゆえに地方の人は反発も激しくなるし、そうであっても首都圏出身者には社会の成り立つルールが違う時点で論外と思われてしまうわけでもある。
ちなみに言うと多摩センター駅がある多摩市は、人口約15万。高度成長期にニュータウン化したものの、当時に入居した団塊世代が高齢化し、空き家が増えるオールドタウン化の進む典型例の場所だ。都心に通える東京都内とはいえ、首都圏郊外の中でくたびれて細りつつある部類と、地方の中ではそこそこ栄えている部類の地方都市が都市格が一致しているという事実がある。