福井県がサンダーバード直通を残すためにすべきだったこと


  再来月の福井県内延伸を控えた北陸新幹線。終点となる敦賀駅で先日、接続する特急「サンダーバード」との乗り換えの実験をJR職員総出で行ったところ、所要時間8分の想定が実際には13分もかかったという。現実には、乗客はみなスーツケースなどの旅の大荷物をかかえており移動も不慣れであるから、おそらく開業後はもっと混雑し、しばらく大混乱になるだろう。


 このような乗り換え問題が生じる駅は以前にもあった。北陸新幹線の開業前、東京方面から北陸の最短ルートは上越新幹線の越後湯沢駅から特急「はくたか」に乗り換えるものだったし、東北新幹線も盛岡や八戸止まりだった時はそこから青森方面への特急に接続していた。これらはあくまで人口数十万レベルの県庁所在地しかなかったし、東京からその先に行くにははあまりに遠いため飛行機利用者も多かった。それでも越後湯沢駅では繁忙期は大量に設置された中間改札機を解放させ、たった8分の接続のために大勢の客がダッシュしていた。


 今回の乗換はもっと大変になる。敦賀駅からすぐ先の県境を越えればもう滋賀県で、関西圏はすぐそばだ。歴史的に北陸は人口の多い大阪方面からの結びつきが強く、現状サンダーバードはコロナ渦や地震の影響を除けば常に賑わっている。このままでは繁忙期の越後湯沢状態が敦賀で年がら年中繰り広げられることになるのは確実ではないだろうか。


 なので今回の延伸について関西方面はあまり喜びの声が聞かれない。いままでは特急1本で福井や金沢まで行けたのに、最速タイプなら通過していた駅の敦賀にわざわざ降ろされ、大混雑の通路を13分歩いて新幹線に乗り換えさせられるあげく値段も上がるからだ。


 福井県にとっても関西との往来では不便であるから、県はずっとサンダーバード維持を訴えていたが、国やJRは否定的な立場でおととし断念している。ただ、建設段階から言われていた敦賀駅乗り換えをめぐる面倒がいよいよ現実味を帯びてきた中、サンダーバードの一部を残すべきだったという声はSNSにも寄せられている。

だったら越美北線に直通すればいい

 どうすればサンダーバードを残せたのか。それは福井から先、越美北線に直通する特急にすればよかったのではないだろうか。というのも現状のサンダーバードも金沢止まりではなく、その先の七尾線を走って和倉温泉駅まで直通するものもある。つまり途中の金沢からかつての北陸本線から七尾線が分岐する津幡駅までは第三セクター区間を走っていることになる。


 このように最終的に別の路線に直通する場合、新幹線開業後も部分的に並行在来線区間を走る特急は各地にある。新潟の「しらゆき」もそうだし、九州にもある。並行在来線内だけで完結しないのならば経路が被っても構わないというのなら、福井駅でスイッチバックして越美北線に乗り入れてしまえばいいのである。そして福井を代表する名所である永平寺にほど近い越前高田駅に停車し、大野市の中心の越前大野駅まで走らせることで、地域輸送や観光に特化すればいい。その先の区間が特ペイできないなら、房総半島の列車みたいに特急としては越前大野を終点としつつ、同じ車両を普通列車扱いで終点の九頭竜湖駅まで走らせればいい。先頭2両だけのドア扱いにしたら短いホームでも構わないだろう。


 七尾線の特急は金沢止まりの「能登かがり火」もふくめ、北陸新幹線で東京方面から金沢にやって来た旅行者を能登方面に接続させる役割も担っていた。北陸新幹線の金沢開業時、石川県に多くの観光客が押し寄せるようになったが、福井にも観光効果が発生すれば、細々とした地域輸送のみの赤字ローカル線だった越美北線が化ける可能性もあるだろう。県としても沿線自治体も、嬉しいし、赤字のお荷物が金のなる木に代わればJRにとってもありがたいことだ。


 もちろん越美北線は非電化なので、電車形式のサンダーバードはそのまま直通することはできない。それなら県あげて電化するべきだったのではないか。赤字ローカル線に電化なんて馬鹿げているという批判もあるかもしれないが、それをいったらおなじ福井県内を走る小浜線だって利用者が少ない赤字路線だが2003年に電化を実現している。ちなみに北海道でも北海道新幹線の新函館北斗開業に合わせ同駅から函館駅まで走るJR函館本線を電化し、観光客も多く利用する接続路線として活用している。サンダーバードを停めるには短すぎるホームも田舎で土地がいくらでもあるのだから伸ばせばいい。航空写真を見る限りは、越前高田駅も越前大野駅も元は長編成が停車可能な駅だったのかホームの先に空いたスペースが続いているように見える。


 当然、この特急には関西から福井駅まで利用する人たちもかなりいるだろう。代替となる新幹線新駅が街はずれになる武生駅の利用者や特急がただ消滅して不便になる鯖江駅の利用者だって重宝した。福井県内利用者のそれなりの割合が特急に移れば、敦賀乗り換え利用者は石川方面以遠に行く客に限られ、混雑緩和になったはずである。

すべては福井県の消極性の問題

 だが福井県は、サンダーバード廃止反対は訴えても「残すために自分たちはどうするか」という視点がなかった。観光客増加を見越して越美北線を活用するというアイデアもなく、そのために沿線地域とまちづくりを検討するというようなことも一切しなかった。赤字ローカル線の電化も、観光特急の直通も、前例はあったのにである。この直通のための準備は予算さえつければ、北陸新幹線の福井延伸までの何十年という建設歳月に実現できたことだ。


 石川では新幹線開業の10年も前から、金沢駅に「おもてなしドーム」を設置し、旅行者を迎えるランドマークとして定着している。中心街の公共施設の移転に伴う再開発で美術館群を作ったり、ひがし茶屋町のレトロな街並みの保全や整備に努めたのはそのずっと前のことだ。そういう努力が金沢市だけでなく、今回被災地にもなった能登半島方面にもあって、新幹線効果による石川観光ブームは成功したのだ。


 棚ぼた的に新幹線が伸びて来ることを歓迎するありきで、特急を残せず、ただの田舎県の1つでしかなかった現状を切り替える新たな仕組み作りを自力でやってきた形跡がない。この消極性のせいでサンダーバードは残らず、大勢の関西人が敦賀駅に押し寄せるハメになったわけである。





 




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