東北本線の「並行特急」は今なら成り立つ

 

 (Wikipedia)

 先日、東北新幹線が架線トラブルで終日運休となった際に、特急型車両を用いた臨時の快速列車が運行され話題となった。利用の多い東京~仙台間を新幹線停車駅を中心に停車することで、時間はかかっても本州縦断の鉄路の大動脈が寸断されることを防いだ。


 最近のJRはこうした対応が多い。おととし福島沖地震があった際も、当時の不通区間だった那須塩原~仙台を同じ車両の臨時快速が結んだ。通常短い編成の鈍行しか停車しない那須塩原駅のホーム上に大勢の人で埋め尽くされ(画像)、代行ルートとしての東北本線の重要性を知らしめた。新幹線開業前は特急が東北本線の中心的な存在だったが、今では全線から特急がなくなり、どの駅も長大なプラットフォームなどの設備を年がら年中持て余している。だったら短くした方が維持管理の手間が省けるはずだが、こうした万一の時のために必要なのだ。


 とはいえ災害や緊急時のことを考えれば、やはり定期運行の特急が存在している方が良いのではないか。現状の臨時快速はよその路線から空いている特急車両を調達して配車してしのいでいるのだが、どの列車も満員状態で本数は明らかに不足している。とくに東北本線は黒磯駅から先で電化形式が直流から寒冷地用の交流に代わるので、ここをまたぐ列車が必要なときはその両方に対応した車両でなければいけないから、配車の選択肢は限られてしまう。東北本線にもし並行特急が日常的に走っていれば、それをそのまま代行便に転用すればいいだけのことであり、JRも乗客の側も煩わせることはない。


 いままでは「新幹線があれば特急はなくなるのが当たり前」という考えありきだったが、私はもうその図式は時代に合わないのではないかと考えている。並行特急が成り立つ条件が今の東北本線には存在しているのだ。

①特急による「区間利用」

 新幹線には「速さ」という圧倒的利点があるが、反面運賃は高額である。東京から遠方までを行き来するような移動であれば高くても払う価値があるが、1~2駅だけ乗る分には損な乗り物である。

 特急がなければ普通列車に乗るしかないが、今の東北本線ではそれが「青春18きっぷ」を使い慣れた猛者でもなければ耐えられる状態ではない。かつて東北本線が長距離輸送が中心だった頃は、鈍行であってもボックス席中心で、いくつも県をまたぐ長距離列車が多かった。しかし今はローカル線の地域輸送に特化しているため、ロングシートでなおかつ運転区間も細切れになっている。

 たとえば、かつての東北本線の主要な系統分離駅は電化の変わる黒磯だったが、いまではその少し先の新白河でも切り替わるので、那須塩原~白河間の比較的短い区間鈍行は3回列車を乗り継ぐ必要がある。黒磯以南にしても、宇都宮でも完全分離されるようになったため上野方面の通勤電車はもう入って来ない。おまけに宇都宮まで来ない列車も多い。首都圏から遠いためだ。

 以前であれば、新幹線に乗らずとも普通列車でも4~50kmくらいの移動は容易だったが、いまではこのくらいの区間移動に値する乗り物がないのである。そこでもし特急を復活させれば、普通列車より早くリクライニング席で快適で新幹線より安価という利点で、高速道路あたりに流れていた需要を鉄道に回帰させることは可能である。

②都心直通需要

 国鉄時代の東北本線は上野駅が始発だったため、昔の特急は上野始発が当たり前であった。しかし21世紀に入ってからは湘南新宿ラインの開業で新宿回りで渋谷や横浜に直通できるようになり、その後上野東京ラインで上野~東京間がつながり、そのまま東海道線に乗り入れて南下できるようになった。これは大きな変化である。

 特急が「上野始発縛り」だった時代は、目的地が東京駅の場合は一度山手線・京浜東北線に乗り換える必要があった。これはさっきの系統分離の話と一緒で敬遠されることである。だが今は、東京駅にも停まれるし、なんなら常磐線の「ひたち」のように品川始発・終着にだってできる。たとえばこれは大宮を出発した人が東海道新幹線を利用して関西に行くときに便利だ。これまでは大宮から東京駅までそれなりの乗車時間スーツケースを携えながら通勤客と一緒の普通列車に乗る面倒があったし、かといって新幹線に大宮~東京だけ乗るのは「短くて高い」のでこれも避けたいことだった。ちょうどいい移動手段として並行特急があれば、混雑する東京駅を避けて品川から新幹線に乗ることができるのである。

 また湘南新宿ライン系統に並行特急を直通させれば、北関東方面には人気の繁華街の池袋のほか、新宿や渋谷といった主要な東京のターミナル駅に一本で行ける。混雑する通勤電車に乗り換える必要もないので、こうした特急が重宝される可能性は極めて高いのである。

将来的な線路容量問題も解決

 東北新幹線には線路容量不足の問題がある。今でさえ東京~大宮間は北陸・上越新幹線も共用していてかなり過密なほか、新青森から直通する北海道新幹線の札幌延伸が実現すれば、東北新幹線全線が一気に賑わうようになる。札幌と仙台、首都圏の東日本3大都市圏が結ばれるからだ。

 いまでさえ仙台一つだけでも大きな利用があることは東北新幹線「はやぶさ」の大勢のお客が仙台で降りる光景を見ればわかるが、仙台はまだ100万都市。札幌はその倍の人口がある200万都市である。もちろん「4時間の壁」問題を考えれば、東京~札幌間すべてを新幹線で乗りとおす人は少ないだろうが、仙台~札幌だけでもかなりの流動があるほか、辛うじて4時間台にはおさまるだろう大宮~札幌間も大きいものがある。はやぶさタイプの速達列車をバンバン走らせる必要があり、各駅停車タイプ「なすの」型の新幹線を走らせる余地はなくなる。

 そこでなすのの本数を減らした分、線路に余裕がある東北本線に特急を再復活させ、そちらにお客を移すことを行えば、線路容量の問題も解決するのである。なすのの走行区間は東京~郡山だから、並行特急も郡山まで都心直通で走らせればいい。例えば始発駅を品川にし、新宿回りも上野回りも用意するのもいいし、いっそ郡山から上ってきた列車は池袋、新宿、渋谷、品川、東京、上野という風に山手線を逆回りしてそのまま北上して一回りしてまた郡山に下りて来るという郡山発郡山行きの特急でもいい。





 

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