「アジアに抜かれる日本」を嘆く者はナショナリストと紙一重
このポストから滲み出る
— 蒸気宇宙船 消費者は反社会勢力 (@stespashi) February 22, 2024
「日本はアジアの盟主でなければならない」
感は異常 https://t.co/ErBWcPQlh4
いま熊本ではTSMCの半導体工場進出「特需」で盛り上がっている。だがこれに水を差すような声も聞かれる。それが「東南アジア企業の工場に喜ぶなんて、日本も落ちたものだ」という発言で、主に左翼の間で好まれるネタだ。
私はこの論調に違和感しかない。そもそも半導体製造は世界最高の技術を結集したもので、綺麗な水な高度なインフラが必要なものであるから、発展途上国に作られるものではない。TSMC工場は先だって2020年からアメリカ・アリゾナ州を建設しているし、ドイツにも進出計画を進めている。アメリカやドイツは発展途上国なのか?そんなことはないだろう。ちなみに半導体に限らなければ自動車分野などの日本企業の工場は欧米にはいくらでもあるし、それらがバブル崩壊やいまの円安を理由に全滅したという話は聞かない。
もし仮に大東京のど真ん中に台湾企業の工場ができ、それまでスーツを着ていたサラリーマンが「こっちの方が給料がいい」と工場労働者に転職しまくっているのなら、「台湾に抜かれた日本」という図式は確かかもしれない。しかし熊本はしょせんは地方都市であるし、TSMCのある菊陽町は熊本市の外れのひたすら田んぼだらけの郡部である。そんな九州の田舎が、台湾のすべてより上回っていなければおかしいという固定観念の方がおかしいのである。筆者は熊本にも台湾にも行ったことがあるが、高層ビル群に高度な地下鉄網のある主都台北市の都市格はどう考えても熊本市よりはるかに上にあるし、九州最大の福岡市よりも上等な都会である。
この手の「台湾企業に凌駕される日本」を嘆く声は今に始まったことではない。2016年に経営不振だったシャープが鴻海に買収された時もそうだった。「台湾企業なんかに買われるなんて、日本の家電業界も落ちたものだ」というような論調だった。そしてそれは台湾に限らず「いまや日本の家電メーカーすべてが束になってもサムスン電子1つにかなわない。日本は終わった」というようなネタを誰かがいい、みんなが注目して賛同するという不毛な負の馴れ合いの連鎖になっていた。
韓国企業を持ち上げて日本企業を下げる言説も、こじれた盟主意識の産物にしか見えない。サムスンは半導体分野ではTSMCのライバルでもあり、iPhone一強だった世界スマートフォン市場を切り込んだ有力メーカーであるが、1970年代からシャープの技術支援を受けるなど、90年代までは日本メーカーの影響を受ける側だった。同じ時期には韓国車最大手の現代・起亜自動車も日本車のノックダウン生産で成り立っていた。そうした過去を踏まえた上で「主従の逆転」を嘆く言説なのである。自国が凋落しているのだという悪趣味なマゾヒズムのネタ消費をしているようで、実際には昔と同様に近隣アジアを見下しているというわけである。
「タイ人が観光客が豪遊する日本」は何も悪くない
こうした言説として挙げられるのがインバウンド批判だ。たとえばニセコの高級ホテルにタイ人がやってきて、和牛ステーキを喰ったりしているということが報じられるたびに「立場が逆転した」と嘆くわけである。円安バーツ高で、タイ旅行に行く日本人が減り、日本に来るタイ人の方が多いのは事実だ。
これはいったい何がおかしいことなのだろうか。確か旅行系Youtuberのスーツ氏がそんなことを言っていたと思うが、ハワイでは路上でホームレスが寝転んでいる一方で、日本人観光客がそばのいいホテルのレストランで高価なステーキを食べていたりする。それと同じなのではないか。繰り返すようにハワイのあるアメリカは国力では一貫して日本より上だ。しかし、現地には貧しい住民がいる一方、海外旅行で贅沢をしているだけの人もいる。それだけのことだ。
事実として世界GDPランキングで日本は4位に降りたが、タイは30位。タイ人の平均年収は130万円であり、今なお日本に技能実習生で来日するタイ人は大勢いる。それでも伸び盛りの国なので、首都バンコクの上澄みの層は、昔はなかった海外旅行ができるゆとりが出てきて、それがじわじわ広がり、中間層が形成されつつあるということだ。みんながだんだん豊かになっていて、日本に旅行しして良い思いをした人たちが文化交流の懸け橋にもなっている。何も悪くはないではないか。日本の観光地の側も、バブル崩壊で国内旅行需要が消えて空洞化したところに、彼らがやってきて外貨を落とし、雇用機会になるのだから、こっちとしても損をするものではない。
悪趣味な左翼に限って「観光業は発展途上国の産業だから、そんなことに依存する日本は国力が落ちている」と言いたがるが、これも暴論だ。そもそも観光業に対する職業蔑視という時点でリベラルでもなんでもないし、ハワイのホノルルは世界中から観光客を集めて成り立っているから「未開都市」なのか。世界中から旅行者を集めて飯を食っているフランは発展途上国なのかということになる。
タイ人が日本に贅沢旅行をする構図があってはいけないというのは、過疎地の田舎者の高卒だろうとすべての日本人はバンコックのエリートよりも豊かであるのが正しい状態であるという支配者意識の露呈でしかない。タイはいつまでも日本人のおっさんがバッタ物を買ったり風俗を楽しむようないかがわしい貧乏観光地であるべきなのか。タイ人の立場にとって考えたら絶対に感化できないことである。それこそ戦前の植民地主義の悪いDNAを引きずった考えだ。
「対等なアジア」を認識できなければネトウヨと一緒だ
いま韓国では日本ブームが起きている。日本の街中にあるような日本風の飲食店が大量にオープンしている。コロナ開けで日本旅行をするようにもなっている。韓国では2002年の日韓ワールドカップ以降、それまで抗日感情から禁じられた日本文化の流入が解放されるようになったが、その後の時代に育った若い世代には高齢者のような日本アレルギー意識は薄く、先入観や偏見なく日本のコンテンツが評価されているということだ。
一方で、日本の女性もK-POPが大人気。コロナ渦でネット配信の韓国ドラマや韓国映画が多くブレイクし、若い女性の中心地は新大久保になって久しい。これも、「冬のソナタ」の韓流ブーム以降の世代が成長した結果だ。それ以前の時代なら「韓国旅行に行く」といえばさっきのタイと同じように汚いおっさんたちが売春旅行に行くような負のイメージだったが、いまの日本で10代~30代の平成生まれ世代の女性は、オシャレな韓国を求めてソウルに行くのである。
これは悪いことではない。若い世代は台頭に認識しているのである。日本の若者は韓国を見下すことも「抜かれたオワタ」と卑屈になることもない。韓国の若者だって、日本に国力で劣るという卑屈な意識もなければ、日本を凌駕する我が国万歳というような傲慢さもない。同じ目線の隣国として、それぞれの文化が流入し合い、対等にリスペクトしあえている理想状態が日韓・韓日の若者にはあるということだ。
【大朗報】史上初?韓国の最新映画ランキング1位~3位全て日本のアニメ映画で占領
— きばるん 키바룬 (@kibaruuun) March 10, 2023
1位「すずめの戸締まり」
2位「THE FIRST SLAM DUNK」
3位「鬼滅の刃」
韓国の日本映画歴史トップになった
「スラムダンク」を追い越す勢いで
「すずめの戸締まり」が人気を集め
日本アニメブームが起きてます!!! pic.twitter.com/XlkZXGhrqa
私は現状の課題を克服するカギは若者だと考えている。 ヨーロッパではドイツ人とフランス人が「どっちが上か下か」なんてちまちました論争はせず同じEU圏内で対等に異文化交流をしている。同じ北米でアメリカとカナダが対等に人々が行き来し、アメリカの方がGDPを上回ろうが、カナダの歌手のジャスティン・ビーバーにアメリカ人も熱狂する。そういう欧米先進国における対党内近隣国意識が、アジアに芽生えて広がりつつあることにこそ希望があるのである。
もちろん戦前の歴史問題や外交問題があるが、それはナチスドイツが近隣各国を支配した暗い過去を持つヨーロッパも同じである。そうした問題点は1つ1つ互いに歩み寄って解決に向けて話し合いながらどっちが上かではなく、横並びで協調・協力して相互繁栄と発展を尽力すればいいのである。
ちなみに台湾では、まるで日本国内かのように日本車が多く走っている。いわゆる「台湾車メーカー」はあるにはあるが国内でもニッチそのもので、世界的には無に等しい。すべての分野でトップに立つ必要はないのである。実写のドラマや映画で日本は韓国にかなわないが、アニメや漫画は日本の者が韓国でも優位にある。そのように、日本も台湾・韓国もあるいはいずれはタイ筆頭に東南アジア諸国も、互いの強い分野で補い合う関係になればいい。
鳩山由紀夫元首相の東アジア共同体構想ではないが、ゆくゆくはアジアが固まりになってEUみたいになれば、アメリカ一強の世界秩序だって変わるかもしれない。左翼・リベラルを自認する人なら、自分たちが若い頃のバブル時代の「スゴかった日本」の意識を克服し、こういう建設的なことこそ考えるべきである。