なぜJR相模線は複線化をしなくてもいいのか?

 

(Wikipedia)

 神奈川県を走るJR相模線。湘南・茅ケ崎駅と県央の橋本駅の間を南北に結ぶ路線ながら、全線単線で「首都圏のローカル線」と呼ばれている。複線化を求める声は一部自治体などにちらほらあるものの、具体的に着工する気配はない。


 複線化が難しい理由として大都市部のため用地買収が難しいことが考えられそうだが、これは理由にはあたらない。線路沿いは茅ケ崎市や相模原市をのぞけば田んぼ地帯のような場所が多いし、何しろ東武野田線や関西の奈良線(JR)のように大都市圏でも最近複線化に取り組んでいる路線はある。


 ではなぜ相模線が複線化をしないのか。それはそもそも大量高速輸送の必要性が今の路線状況では存在しないからだと言える。

有力ターミナル駅を持たず都市間需要の少ない相模線

 複線化が行われた野田線や奈良線と相模線が異なるのはターミナル駅の不在だ。野田線の場合、船橋駅~柏駅という利用者も多く百貨店もあるような有力ターミナル駅を結んでいる。船橋市は千葉県下二位の65万都市、柏は43万都市と大きい。それに対し、相模線沿線の茅ケ崎市は25万都市にすぎないし、海老名市は14万。橋本駅のある相模原市こそ政令指定都市だが、平成の大合併で出来た市であり、橋本地区のある南区は23万人しか住んでいない。

 これらは地域の中心核となる市・区や駅ではない。湘南の中心は茅ケ崎ではなく藤沢であるし、相模原市や橋本駅より都県境を越えた町田の方が有力な街だ。そして藤沢と町田を結ぶ小田急江ノ島線はもとから複線で多いに賑わっている。県土を縦断して有力都市同士を結ぶ路線としてはこっちがあるので、相模線の利用ニーズは沿線に徹底特化したの地域輸送に限られるのである。

 奈良線にしても、京都市~奈良市という県庁所在地同士の代表ターミナル駅を結ぶ有力路線で、なおかつ古都で旅行者も多く利用することもあり、その複線化が求められるというわけである。そして関東人の我々には奈良も京都もただ古都としてみなされがちだが、京都市は100万都市で企業も多く経済活動が盛んで独自の都市圏を形成している。その移動手段のJRが単線ということはあまりに不便だったのだから、複線化は当然である。

路線の実態は「路線バス」替わり

 先日、私は相模線を全線乗り潰しを行った。休日の昼間ではあったが、驚くのは客層が3回も切り替わったことだ。茅ケ崎駅の発車時点では立ち客も多い満員状態であったが、すぐ次の北茅ヶ崎でいきなりけっこうな人が降りだし、寒川駅でドッと入れ替わった。寒川で乗ってきた人は小田急小田原線と乗り換えのある厚木駅でずらずらと降りていき、その次の海老名駅で再びドッと降りた。海老名で入ってきた客は原当麻までに見かけなくなり、今度は原当麻以北で乗る人が増えだし、ギュウギュウ状態のまま終点の橋本で一斉に織り出したのだ。同じ車両で最後まで乗り潰した人は私以外では、はす向かいの席の若い女性一人しかいなかった。
  
 これからわかることは相模線は路線バスのような使われ方をしているということだ。茅ヶ崎、海老名(および厚木)、橋本という有力な路線との乗換駅で、東京都内や横浜駅方面からやってきた乗客が、自宅のある小さな駅で降り、そこから歩いて帰宅する。朝は逆に相模線の無数の駅から乗換駅を経由して通勤をするという利用形態がほぼすべてとなっているのではないか。それはつまりちょっと早くて輸送力のあるバスみたいなものである。電車とみなした相模線は単線で4両編成で速度も遅いが、バスと比べれば急行バスよりは早く乗り心地も良く使い勝手はいいのである。おまけに定時性も確保されている。

 いずれにせよ鉄道の複線化の最大のメリットは高速化であるが、長い区間を通して乗車する客のいない相模線ではそれを求める需要はない。仮に快速列車を設定しようものなら、自宅の最寄りが通過扱いになり本数が減った沿線住民はむしろ反発し、路線バスあたりに流れてしまう可能性があるのだ。

複線化せずとも運行本数の増加は可能

 それから複線化が必要とされる路線には線路容量がひっ迫している問題がよくあるが、相模線はそういうわけでもない。平日ラッシュ時のあさ6~7時台の茅ケ崎駅下り列車は4本で混雑が激しいが、これは単線だから本数が少ないというわけではない。同じ首都圏の単線路線でも、埼玉で埼京線に直通する川越線なら一方向に8本走っている。

 ちなみに茅ケ崎市の隣町の藤沢市を走る湘南モノレールも単線路線だが、ラッシュ時以外でも上下とも毎時8本運転、7分間隔の高頻度運行だ。つまり単線の状態でも倍の規模に増発することは可能なので、線路容量を広げるために複線化が必要というのは間違いだ。

 なぜ相模線は8本運行にならないのかというと、首都圏とはいえ沿線住民が少なく、この程度で十分なわけである。単線だから本数が少ないというのはよくある間違いで、実際に相模線に乗車すると交換駅での待ち合わせに無駄に時間がかかる場所が多いことに気づく。どう考えてもダイヤがひっ迫している路線ではないのだ。

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