最近SNS上でJR批判が相次いでいる。首都圏でみどりの窓口の廃止が急増し、東京都心にも無人駅が出現している。有人駅であっても、駅構内からキオスクがなくなり、ゴミ箱がなくなり、時刻表や時計がなくなったり、しまいには案内看板が光らなくなった。京葉線の通勤快速が廃止された件は千葉県の大反発を招いたが、神奈川県の東海道線でも通勤快速はなくなった。いずれも有料特急へお客を誘導するためだろう。
もっとひどいのはローカル線だ。おととしの宇都宮地区では、10両編成でやってきていた下り宇都宮線が減車で3両になり、便数も減らされて朝のラッシュ時で激しい混雑に見舞われるようになった。こうした減車・減便は各地で行われていて、末端レベルまで行くと廃線の可能性も現実味を帯びてきている。廃線危機の地域からすれば同じ地方でも宇都宮は線路が剥がされないだけマシともいえるのだ。
このことからJRの在り方を問う声が広がっていて、中には「国鉄復活」を求める意見さえある。むろん旧国鉄がサービスレベルが著しく低く問題だらけだったことは言うまでもない。民営化自体は正しかったが区割りが間違っているというのが事実である。
一番稼いでいるJRは東日本ではなく東海
(Wikipedia)
最近のJRがリストラ策に明け暮れているのは内部補助の運営モデルが破綻したからだ。JR東日本では、膨大な人口を抱える首都圏で稼いだ収益を、地方ローカル線区間で補填することで路線網を維持するやり方を長年とっていた。人口が右肩上がりの時代は、都会の稼ぎが増え続けるのでそれを田舎の赤字ローカル線に充てればよかった。
しかしコロナ渦で通勤ラッシュが消えたことで稼ぎがなくなり、有無を言わさないリストラが行われるようになったわけだ。そして日本はどのみち人口減少社会で首都圏の稼ぎも頭打ちになっているから、将来やる予定だった施策がコロナ渦で前倒しされたという構図もあるのだ。
ところで日本のJRで最も稼いでいる会社はどこだろうか。誰もが東日本だと思うだろうが違う。実際はJR東海である。「地方会社がなぜ」と思うかもしれないが、JR東海は東京・名古屋・大阪の3大都市を結ぶ東海道新幹線というドル箱があり、ぼろ儲けができるのである。
そしてJR東日本と東海の最大の違いが管轄エリアの範囲だ。東日本は関東地方と東北地方の全域に加え、中部地方の甲信越や東伊豆までカバーしている。あまりにローカル線区間が多すぎるので、首都圏の稼ぎも赤字補填で溶かされてしまう。一方、東海は中部地方の中でも太平洋側の東海地区に限られている。新幹線でボロ儲けできた上、負担となるローカル線が少ないために失うものも少ないのである。
その違いもあって、みどりの窓口も東海区間では東日本ならとっくになくなっているようなローカル駅でも存続しているケースがほとんどだという。両社が乗り入れる新横浜駅ではJR東日本のみどりの窓口は早くも2007年に廃止されたが、東海側の新幹線駅舎では今も営業している。民営化後の東海区間に純然なローカル線の廃線事例が1つもないのも、末端路線まで自社内の内部補助で支えられる余力があるからだ。
(Wikipedia)
現状のJRでは、東海会社があまりに儲けすぎる一方、東日本が大きく損をしてしまう。もっというと赤字路線まみれの北海道・四国なんて会社そのものが体たらくを維持するのでもやっとである。そりゃ問題である。
だったら区割りを変えるべきなのである。例えば高速道路を民営化したネクスコは、東日本・中日本・西日本の3社にすっきりとまとめられている。JR東海に当たる中日本会社は中部地方の広域に広がっている。高速道路には民営化で地域会社ごとにアンバランスになったという話は聞かない。
私はJR東海は「JR中日本」に名を変え、中部地方10県を所轄する会社として再出発させるべきだと強く考える。中部地方の全域がJR中日本の担当にさせなければいけないのだ。そうすることで、あまりに稼ぎすぎて困ってしまうほどの東海道新幹線の収益で、甲信越のローカル区間を補うことができ、これらの方面の鉄道の持続可能性は向上する。かつ、東日本は赤字線区を減らし、それが東北の別のローカル線を延命させることや、多くの人が利用する東京のど真ん中に不便な無人駅が出現するようなおかしなサービスレベル低下の阻止につなげられるのである。
JR東海は自民党の大物政治家とも親交の深い故・葛西敬之名誉会長のもと「葛西帝国」と呼ばれる他社と協調せずわが道を行く異様な社風だったものの、氏がお隠れになってからは急にまともになっているという声も聞く。もういなくなった以上メンツを庇う必要もないのだから、国主導で中日本会社への地域再編にかじを切るべきではないか。
北陸新幹線の環状運転化も実現可能
もし仮にJR中日本があれば、行き先と沿線の大部分が中部地方の北陸新幹線は当然中日本の所轄になる。すると東海道新幹線と北陸新幹線がいずれも自社線になる。これは新幹線の直通問題で大きい利便性をもたらすことになる。
北陸新幹線は先日敦賀まで開業したが、その先が全くめどが立っていないのは「米原ルート」を葛西氏が否定していたからと言われている。東海道新幹線に他社(特に不仲とされる東日本)の新幹線が入ってくることを嫌ったのである。ところがどちらも自社線なら調整も容易である。
東京駅で東海道新幹線が大宮方面に直通しない理由も同じく「会社の違い」だと言われているが、どのみち中日本会社の路線であれば関係はない。すると米原と東京で直通することで、東海道・北陸環状新幹線という形でグルグル回す運転も可能なのだ。
そんな新幹線があったらたいへん便利で、今より多くの人が利用し、接続需要でローカル線もその恩恵にあずかるだろう。いまの区割りにこだわれば閉じていく方向しかないJRも、区割りを変えればさらにサービスを上げて稼ぐ好循環にもっていくことだってできるのだ。