札幌撤退と失われる「都市格」
スーパーも劇団四季も「東京と同じ」がなくなる札幌
(Wiki)西友が札幌市内に展開していた店舗をイオンに売却し北海道から撤退するという。これには多くの人が驚いている。北海道でスーパーといえば先だってヨーカ堂の撤退も話題になったばかりだ。もちろんヨーカ堂グループ全体が低迷ぎみだったというのもあるが、多くのメディアが伝えた「地方の不採算店を閉じて首都圏に尽力する」という見方に私は疑問を抱いた。札幌は大都市ではなかったのかということだ。
札幌は決して田舎ではないはずだ。人口200万人で市としては札幌に並ぶ日本で第四番都市だ。であるからこそ、大都市型の生活様式に沿った東京中心に展開していたスーパーが盛んだったともいえる。しかし今回の西友問題ではっきりしたのは、札幌はもう「大都市」の常識が通用しづらくなっているということだ。西友の跡を継ぐイオンと言えば「イオンモール」に所長される地方農耕社会のロードサイド文化の王者だ。道路沿いにデカイ駐車場を立てて客を呼び込むというアメリカ式のモータリゼーションに根差した企業である。
駅前市街中心型のヨーカ堂は今の札幌の生活様式ではその強みを生かせないということではないか。私は大戸氏に札幌を訪問し、JR苗穂駅からヨーカ堂系の「アリオ札幌」まで地元の友人と歩いた。駅直結の渡り廊下は人通りがとてもまばらだった。筆者の地元の神奈川県にある海老名駅なら駅前型大型店と駅とを結ぶペデストリアンデッキは平日でもごったがしているから、比べるとあまりにもパッとしておらずそりゃ撤退するのも仕方ないような気はしたのだ。ちなみに札幌市は200万都市だが海老名市は14万都市にすぎない。
札幌では近年撤退ブームが起きている。アップルストアは2017年に閉店してしまったし、2025年には劇団四季の劇場の閉鎖も予定されている。アップルストアも四季劇場も東京を筆頭に、全国の主要都市のど真ん中にあるようないわば都会文化の象徴のようなものだ。それがなくなるということは札幌の都市格が落ちていることを意味しているといえそうだ。
ドーム球場が成り立たない問題の本質
札幌より市としては人口の少ない福岡では、アビスパ福岡のベスト電器スタジアムと福岡ペイペイドームがそれぞれあって、どちらも経営危機のような問題は聞かれていない。福岡にはアップルストアもまだ生き残っている。市内では地下鉄は延伸工事が相次いでいるし、博多駅の集積機能は年々高まっているようにも見える。札幌は逆だ。
スーパーにせよドームにせよ1つ1つの問題を個別のこととしてとらえることなく、公共交通を基準とした街文化が失われていることを札幌は認識し、考えるべきではないか。最近の札幌市内では、路線バスの廃止も相次いでいるという。首都圏でも東京でも人手不足で減便が起きているが、札幌では長年利用された主要路線が廃止になるなど、危機的状況になっている。
首都圏であれば、電車や地下鉄に乗って路線バスに乗り換えて自宅や目的地に行く移動が当たり前だが、札幌ではそうしたものは過去形になりつつあるのではないか。利用者が少なくなれば、バスの主要路線であっても人手不足を理由に廃止はやむなしと言えてしまう。そうした交通拠点に店を構えることで経営してきたヨーカ堂のようなビジネスモデルは破綻する。ゆくゆくは札幌都心に行く意味も薄れ、有名なクラブが閉鎖されたり観劇文化さえなくなるわけである。
結局、住んでいる人たちが実際には地方農村型の生活をしていれば、いくら人口があっても都市格は落ちるのである。郊外の家に「一人一台」の自家用車を保有し、家族全員が各々のマイカーでロードサイドの職場に行き、買い物はイオンモール。休日の余暇もロードサイドでラウンドワンみたいなマイルドヤンキー的な生活をみんながすれば、そりゃバスも地下鉄もJRも誰も乗らなくなる。ロードサイドで満たされれば街文化などなくてもよくなる。
そういう生活様式と文化次元の「荒廃的転換」を札幌市やしかるべき立場の人は時代の変化だから仕方ないと指をくわえてみているだけでは、この街は本当に終わるんじゃないか。