政権交代神話をなくせ
(Wiki)
支持率ワースト記録を更新し続ける岸田政権。自民党は長年の派閥政治による裏金問題に国民から厳しい批判にさらされているが、その割には野党もパッとしない。おそらく有権者心理で「民主党政権のトラウマ」がいまだにあるからではないか。
2009年の鳩山政権発足時を思い出してほしい。投票率7割という近年稀に見る高さのもと民主党が馬鹿みたいに勝ったのだ。それは普段は投票所にすら行かない、政治をハナから見限っていたような有権者が一斉に動いたということだ。
ネトウヨは民主党を左翼政党だと思い込んでいるが、実際には旧社会党系が目立つだけの「極右も極左もごった煮にした野合集団」である。その野合集団を突き動かしていたのはほかならぬ反自民の無党派層であり、普段は投票所にも行かないような人たちだったのだ。彼らがなぜ自民党を嫌っているかというと保守思想の党だからではない。権力を長期独占し、利権にかまけて腐敗堕落していたからだ。族議員が利権を引っ張ってメシを喰う人にはいいが、既得権益で庇護されない側の国民にとっては税金をむしるだけむしってリターンのない損でしかない政治集団でしかない。
しかしこの民主党が3年で終わってしまったのは、いざ権力を与えてみたら彼らもまた小沢グループと主流派が党内抗争を繰り広げるような派閥政党であり、日教組のドンと呼ばれた輿石東がいたような既得権益集団とつながった利権政党だったからだ。そのくせ経験不足で政治運営は稚拙な劣化自民でしかなかった。その後はこれじゃあまずいと自民党に戻したが、自民党を支持するわけではない。その自民党も下野しているうちにベテラン世代が抜けて劣化していまの政権担当能力に疑念しかないのだが、ほかにかわりがないというのが、この手の有権者心理だ。
私はこれが今の日本政治を停滞させている諸悪の根源だと考える。政権交代すればなんでもバラ色になると思い込む人たちがいけないのである。旧民主党の支持層と、一見政治に無関心なふりをした過去に民主党を熱烈支持した黒歴史を抱えるB層たちだ。私は政治を前進させるには、その神話を克服する必要があると考える。
政権交代はただの利権の付け替えだと知るべき
政権交代で起こるのはせいぜい利権の付け替えなのですが、そうした利権の定期シャッフルが全体としては社会にとって健全な方向に作用するよね、という非常に「冷笑的」な哲学によって構築されてるのがリベラルデモクラシーですよ。
— 河野有理 (@konoy541) April 10, 2024
ちょうどそんなことを法政大学の河野有理教授(政治学)がポストしていた。振り返れば2009年前後の政治は確かに異常だった。民主党議員自身も、自分たちに政権を変えればなんでもよくなりますという風な物言いを平然とやっていた。いざ権力を奪取すると現実に突き付けられて態度を変えざるを得zなくなり、かえって国民の批判を招いたのだった。霞が関埋蔵金問題とか、八ッ場ダム建設や辺野古新基地建設の阻止失敗など、あげればきりがないだろう。
こういうことは冷静に考えれば大人ならわかるはずのことではないか。革命やクーデターが起きた国じゃあるまいし、政体が変わったら一瞬で何もかもがひっくり返ってしまうなんてありえないし、一応は先進国にいて高度な民主主義国家でもある日本でそんなことが起きた方がよほどまずいのである。
海外は当たり前に数年スパンで政権交代を繰り返している。私が良く行くおとなりの韓国や台湾もそうだし、アメリカやヨーロッパ各国もそうだが、「政権交代で全てが救われる!」などと考えるのは熱狂的な野党第一党員くらいじゃないだろうか。左から右に、右から左に変わっても韓国は韓国のままだし、アメリカはアメリカのままなのだ。ただトランプ前大統領のようによほど歴代政権の秩序をぶち壊しまくるような独裁気質の人間が上に立とうものならその時は荒れるが、私には岸田文雄も泉健太もそのような危険な政治家には見えない。
必要なことは有権者の中の暗黙の了解として、政権交代で既得権益は抹消できないという共通認識だろう。政界から利権構造は消えないが、その分配先が変わることで変化をもたらすことができる。旧利権のしがらみから断たれることで、その辺の都合を守るために阻害されていた政治の前進を実現できる。そういう1つ1つの変化の連続で国家は発展することができるのである。
その点で言えば民主党政権は利権の付け替えすらもほとんどなかったと言える。そもそも小沢一郎が農家の戸別補償を掲げたことで農村票が一気に動いたのが政権交代の決め手であったし、小泉政権の郵政民営化でぶった切られた郵政族たちが作った国民新党を反自民ならなんでもありで連立政権に招き入れて郵政改革担当大臣のポストに与えて郵政改革の振り戻しに成功した。
こういう指摘をすると「農協を潰せと言うのか!」とか「アメリカ言いなりの郵政省潰しを肯定するのか!」と左からも右からも言われそうだが、野党がリベラル思想でまとまるのであれば、農協利権ありきではない持続可能な農業政策モデルを提案して実行すれば良かったのである。ところがそういう政治の切り口は、旧民主党には持ち合わせていなかったし、おそらく今の野党にもないのだ。
疑似政権交代ができないいまの自民党は限界
だがこうした党内の多様性は第二次安倍政権の安倍カラー一色化によって失われてしまった。野党共闘支持層は「安倍は右に振り切れている。田中角栄の時代の自民党に戻すべきだ」と理想を言っていたが、昭和の時代ほどの巨大な政党ではない。かくして派閥の存在は形骸化し、岸田文雄首相のもとで一斉に解体された。
第二次安倍政権以降の政治のきな臭さ、政権側が何でも閣議決定して好き放題やっていても党内も批判が出ずに野党も歯止めにならない不気味さの正体は、疑似政権交代機能の不在によるものに他ならない。だったら政権交代するしか、政治の健全化はない。だがそこに神話は必要ないのである。