箱物韓国と民活台湾

 

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 日本の隣に位置し、経済レベルも類似する韓国と台湾。かつて日本の植民地だった過去を持つ両地域は、戦後は反共の防波堤として西側諸国の影響下で発展、ともに同時期に民主化した点も類似する。何かと比較されがちだが、決定的な違いは「官が強いか民が強いか」だと私は考える。


 たとえば約20年前にそれぞれ高速鉄道を建設したが、台湾新幹線(画像)は民間企業の高鐡が運営する形式をとっており、既存の国鉄の並行在来線とは競合関係となっている。一方、韓国では公営の鉄道公社が高速鉄道も走らせている。


 台湾新幹線は「BOT方式」を採用している。民間による資金調達で建設し、開業後は自分たちで稼いだ後、将来的に公共に移管するというやり方だ。日本のJRのように、公営だったものを後から民営化するやり方とは逆である。後述するように台湾ではこのBOT方式を採用した大型事業が実はとても多い。


 筆者は両地域を何度も訪問しているが、単に旅行するだけでもこの違いを意識する場面はあちこちにある。

台湾クリエイティブの発信拠点・文創

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 私が台湾で必ず訪れる場所がある。それが「文創」だ。文化創意産業園区の略称で、歴史的な産業遺産などをリノベーションして、若手のクリエイターの発信拠点とするもので、台湾各地にある。どこもアート鑑賞や土産の買い物をするにはうってつけの場所である。その代表例と言えるのが台北市内の華山1914(画像)だ。


 成り立ちがとてもユニークだ。もともとここは名前の由来となった1914年に建築された酒造工場だったが、1987年に工場移転に伴い閉鎖されて長年廃墟だったという。その廃墟状態だった場所に若者がこっそり忍び込んで壁画を描いたり、アートの場としてひそかに活用されていた。


 ある時ここで公演をやっていた劇団が不法侵入の罪に問われる事件が起き、クリエイターの拠点にすべきだと主張。それに多くの支持が広がったことに突き動かされた政府が始めたのが一連の文創政策である。日本だったら逮捕されて終わり、跡地は治安対策で更地にされてただのマンションかショッピングモールになって終わりだろう。ここに市民が権力を打倒して民主化を勝ち取った台湾の民間の強さを感じられる。


 この華山1914は、本来の工場の面影を残しつつ、中にショップやレストラン、劇場やライブハウスなどがある。日本で例えれば横浜赤レンガ倉庫のような場所だが、実際に行ってみると「常設の学園祭」的な雰囲気があって面白い。お店で若手クリエイターの作るグッズを買おうとしたところ、従業員がペンキ塗りの作業の手をとめて会計をしたこともあった。ただの店員ではなくみながクリエイターの一員なのだ。

対照的なソウルの東大門歴史文化公園


 一方、韓国の首都ソウルで大型のクリエイティブ拠点といえるのは東大門歴史文化公園である。ここは戦前日本が作った運動場を更地にし、ザハ・ハディド設計の東大門デザインプラザパークを核に再整備したものだ。もちろん韓国には抗日感情が根強くあるものの、戦後につくられた野球場を含めたかつての建築群をすべて更地にし、1からハコモノを作り替えるのは韓国流だ。ここも訪問経験がある。


 もともとある土地の記憶を引きずり、サークル活動や個人のレベルのクリエイターも表現や制作活動をやっていた文創とは違い、こちらは過去と決別し、かつ大掛かりな展示スペースや大資本によるショップなどが目立つ。素人に近いクリエイターには到底縁遠い空間だろう。国柄の違いがはっきり表れている。


 韓国では韓流カルチャーを国策で進めている。「官」の強い支援の下、ハリウッドに見習いに行った映像制作者により大掛かりな映画が作られたり、大事務所がスパルタ人材育成のもとトップダウンでデビューさせるK-POPのグループがいたりする。ボトムアップ型のカウンターカルチャーが勢いあまって官を動かす台湾とは対照的だ。


 ちなみに東大門野球場の代替施設として2015年に作られた韓国初のドーム球場「高尺スカイドーム」は非常に大がかりな施設で、イベント会場としても活用されている。台北にも遅れること2023年に台湾初の「台北ドーム」がオープンしたが、こちらもBOT方式で、隣接する松山煙草工場跡を用いた文創園区とともに一体整備されている。ドーム球場にもやはり文創なのだ。


 もちろん台湾が民活に縋らざるを得ない事情もある。周知のように国際社会に国としてほぼ認められていないため、オリンピックやFIFAワールドカップといった主要な世界大会の開催国になることはない。韓国はソウル五輪や平昌五輪、そして日韓共催ワールドカップがあり、官主導で大型のスポーツ施設を新設する機会があったが、そうした機会に恵まれない台湾では施設環境に恵まれない。


 文化面でも同様で、韓国版コミケと言われるコミックワールドはソウルなどの見本市会場でおもに実施されているが、台湾版のコミケは大学キャンパスで実施することもある。漫画アニメの人気度はどちらかと言えば韓国より台湾の方が強い印象があるが、供給する会場環境に乏しいということだ。これは台湾にとっての欠点でもある。

官主導名所の弱点


 筆者は在日韓国人の友人の実家がある全羅南道を訪れたことがある。韓国南部に位置し、原風景が残る田舎地帯だ。歴史的背景から中央から冷遇されていたとも言われている。日本で言えば田中角栄が新幹線を引っ張るまで寒村だった北日本のような位置づけだろう。これだけ韓国人気なのに日本人観光客はほとんど来ない地域だ。


 その全羅南道で、出迎えた地元の人に案内されたのが珍島だった。天童よしみが演歌で歌った海割れの島だ。島を結ぶ海峡には真新しいロープウェイ(韓国ではなぜかケーブルカーと呼ぶ)が通され、海上散歩を楽しむスカイウォークなど、一体整備されていてなかなか面白いものだった。目覚ましい発展を遂げる韓国にあって、地方のハコモノ環境も充実しているわけである。筆者の親の出身地は東北地方だが、バブル期につくった東北の観光ハコモノスポットとなんとなく被って見えた。


 実は後で調べたところ、こうした海上ロープウェイは道内では木浦や2012年万博開催地になった麗水などにもあるという。木浦にはスカイウォークもある。釜山なども含めると、韓国のあらゆる地方都市にロープウェイやスカイウォークの整備が広がっているということだ。


 私はソウルしか知らなかったので、ありのままの素っ裸の韓国の田舎の様子を体験したくて友人の地元に行ったのだが、それでも友人の親族からは「どうしてこんな田舎なんかに来たの」とか「せっかくなら光州に行けばいいのに」と言われたものだった。日本以上の首都一極集中の韓国では、主要都市以外はとことん軽んじられる傾向がある。こうした国柄の韓国では、地方が観光魅力を開発する上では大型公共事業、官の力にどうしても依存せざるを得なくなる。


 しかし官主導の開発は、地域の民間レベルでは到底整備できない立派な施設が実現できる反面、どこも似たり寄ったりになってしまうという課題がある。これは日本の地方がさんざん経験したことだ。ある地域にハコモノができると、県内の別の自治体があそこだけ抜きんでるのはずるいという風になって同じようなものを作り出す。結果「均衡ある発展」でどこも同じような似たり寄ったりな施設だらけになるのだ。どこだって同じとなると最終的には「だったらソウルに行けばいい」という風になってしまう。ジレンマでもあるのだ。


 その点、台湾では地方にも文創園区があり、地方ごとの特色がはっきりと見える。一方でそれなりの主要都市でさえ日本統治時代に整備した老朽化して手狭な建屋がいまなお公共インフラで使われ続けるなど地元目線で見れば不便な難点もある。韓国・台湾双方の感覚をうまくハイブリッドすれば、それぞれの地方都市は理想的な地域発展と魅力づくりができるのにと思うものだ。






 







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