地方都市は人口が減っているのではなく周辺分散している

 

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 山梨県甲府市は人口20万人に満たない。市によると1985年の21万人近くに上ったのがピークで、その後は下落の一途をたどっているようだ。県庁所在地としては鳥取市に次ぎワースト2位である。山梨県は典型的な県都一極集中で、県内に甲府に肩を並べる都市はほかにはない。


 というと、「山梨そのものが衰退しているのだ」と誰もが思うだろう。しかし現実にはそれも違う。最新の人口統計によると、山梨県内では甲斐市、南アルプス市、昭和町、富士河口湖町で人口は増えている。うち甲斐市と昭和町は甲府のすぐとなり、南アルプス市は甲斐市を挟んだ隣の隣である。


 この事実からわかることは甲府に集中していた人口が近隣自治体に分散しているということである。昭和町にはイオンモールがあり、買い物や余暇のために多くの人が集まる場所だ。一方で、甲府の駅前中心街は百貨店が閉じてシャッター化の傾向にある。甲府の市域の中だけをピンポイントに見れば衰退しているが、現実に起きていることは郊外化なのである。市街地近隣に住む暮らしから、より町はずれに住宅地区の軸が移り、やがて市境を越えて近隣市町に広がったということだ。

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 また冒頭に人口ワースト県都が鳥取市であると伝えたが、鳥取市は確かに人が減っているが、鳥取県においては県西の日吉津村で人口が増えている。この日吉津村にはイオンモールが1999年に開業し、県境を挟んだ島根県松江市方面からも多く集客しているという。松江から日吉津は30km圏で、マイカーで行き来すれば実質的に同じ生活圏なのだ。松江市も同様に人口が減っており、3年前に対に20万割れとなっているが、地域全体を面的にとらえればその見え方は変わるはずだ。


 地方の問題を論ずるとき、その多くは都道府県や市町村といった自治体単位での言及になりがちだ。だが実際には県庁所在地クラスの都市で起きていることは都市圏の膨張である。そういう現象が、21世紀に入ってから顕著になっているのである。

「奇跡の村」はだいたいただの郊外

 富山県舟橋村は、平成以降の人口増加の傾向から「奇跡の村」と呼ばれている。多くの村が過疎に悩み、県庁所在地都市でさえ斜陽化する中、田舎県の村なのに人が増えるのはスゴイということだ。いまも人口増加率は好調だ。


 だがその実態はただのベッドタウンなのである。村は富山市のすぐとなりの田んぼ地帯に位置していて、中心街から直線8kmしか離れていない。面積が非常に小さく全国最小の自治体でもある。戦前~戦後に至るまでたまたま合併しなかっただけで、富山市の一地区になっていてもおかしくない立地・規模なのだ。一方の富山市は人口減少が始まっている。


 さきの日吉津村や舟橋村以外にも、このような「郊外村」はある。福島県南部の西郷村も福島では人口が増えていることで有名だが、その理由は東北新幹線の新白河駅があるからだ。新白河は福島県南の代表都市の白河市のための新駅だが、駅の所在地は隣の西郷村なのだ。東北自動車道の白河インターがあるのも西郷村だ。

 筆者は親の出身地が東北地方なのでたいへんなじみがあるが、西郷村内にはロードサイド型のイオンもあれば、ビジネスホテルがたくさん林立している。祖母が他界した前後はクルマで東北と関東を行き来することが多く、西郷村のビジホにはよく世話になった。ここは「白河の関」が有名なように、関東と東北の境目のあたりだ。ビジホにはどこも栃木の那須高原の観光案内が充実していて、県境を越えた一体的な地域圏であることが垣間見えた。


 単に白河市の市街地機能が西郷村に移転しただけでなく、関東の近さからも移住者が増えているというわけである。新幹線通勤が可能な仕事なら都内にも通える。短距離各駅タイプの「なすの」という新幹線は、名前のとおりに那須塩原駅止まりだったが、いまでは新白河に停まる列車が増えている。

金沢バブルでも人口が減るワケ

 北陸の中心都市・石川県金沢市では2015年の北陸新幹線開業後、企業進出が進んだり観光客が殺到するなど「金沢バブル」が発生している。しかし市の人口はすぐあとの2018年に減少がはじまっている。


 理由はもう説明するまでもない。すぐ隣で市域面積の小さい野々市市や、イオンモールのあるかほく市では人口増加中であり、単に郊外膨張による近隣自治体への転移が進んでいるだけなのである。ちなみに野々市市の先の白山市内の田園だった場所にもイオンモールが2021年にできたばかりだ。

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 しかし金沢の場合、市を挙げて郊外化を推進し続けた面もある。平成の初めごろに旧市街にあった県庁舎や金沢大学などの公共機関を街はずれに郊外拡大移転。それらの施設は中心街からは遠くなったものの、駐車場完備で街はずれの住民や近隣自治体民がマイカーで行くには便利になった。


 一方、公共機関が抜けた後釜を博物館・美術館や文化施設にし、旧市街の観光ゾーン化を徹底。21世紀美術館(画像)も元は金沢大学のキャンパスだったし、旧県庁舎は石川県政記念しいのき迎賓館に再整備された。まちの中心は新幹線でやってきてこれらを回遊する観光客でにぎわうようになったが、地元民が市街に行く必要性や市街周辺に住むメリットは薄れたのである。


 このように金沢は、市としては人口を減らししながら郊外から近隣自治体は膨張を続け、経済面でも観光でも好調といういびつな「発展」を遂げているのだ。

いま地方都市に必要なのは周辺を含んだ全体発展像

 大都市集中の時代である。国全体の人口減少が起きている中、首都圏はもちろん、東北なら仙台、北海道なら札幌といった100万都市や200万都市にのみ集中し、ほかは県庁所在地も含めて全滅しているかのような図式が持たれがちだが実際には大都市以外も、地方都市の膨張という現象は起きていて、今もそこには伸びしろがある。


 そうした面的発想に着目し、独自の像を描いた地方都市にこそ将来性があるのだと私は考える。たとえば栃木県宇都宮市で去年開業した「宇都宮ライトレール」は自治体関係者からも注目された。宇都宮駅から東に鬼怒川を渡り、となりの芳賀町にある工業団地に至る路線だ。中心街や住宅地、主要な施設周辺ではきめ細やかに電停にとまり、合間の空白地は高速でショートカットするやり方が定評のようだ。

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 宇都宮には戦前も路面電車が存在しなかった。例によってクルマ社会で、ロードサイドの郊外が膨張していき、住む場所も買い物も、通勤先さえ工業団地ならばすべて街はずれで、車抜きに生活できないようになってしまった。


 それらを解決するために建設されたライトレールは、予想外に大成功し、地域の足として定着しているという。建設前は「車社会の栃木に路面電車なんて作っても絶対に失敗する」という批判もあったものの、ふたを開けてみれば特に若い世代なんかはクルマなしで移動ができるようになったことが好評だという。将来的な延伸計画もある。


 このような自治体の枠を超えて全体がより繁栄するための仕組みを検討し、まちづくりをしていくことが今の時代に求められることだ。かつての地方にみられたような近隣自治体を蔑視したり対抗意識を持つような村社会な発想を克服し、新しいビジョンを描いた地域こそが生き残るのだ。







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