石丸市長は都知事になるかもしれない
広島県・安芸高田市の石丸伸二市長が次の都知事選に出馬するという。石丸氏といえばネットの有名人だ。民間出身の若手市長で、長老だらけで凝り固まった田舎議会と激しいバトルを繰り広げる様子が動画で切り抜かれ、SNSで人気を集めている。
私はもしかすれば石丸市長は東京都知事に当選するのではないかと考える。石丸氏を応援しているのは旧ライブドア創業者の堀江貴文氏や2chの西村博之氏といった「ネット的なる人たち」である。政治といえば右か左か、自民か革新野党かの二項対立の図式に陥りがちだが、東京の政治にはもう一極が存在しているのだ。
先の東京15区衆院補選で「五体不満足」の乙武洋匡氏が出馬した時も、西村氏は乙武氏の応援演説に駆け付けた。小池知事の創設した都民ファーストの会と国民民主党が推薦。結果は惜しくも敗北したが、なんとなしに一定の政治的潮流が見えて来ないか。乙武氏は政治家を志す前からネット上のインフルエンサーであるし、小池知事といっしょに乙武氏を応援した国民民主党の玉木雄一郎党首も、ネット配信を重視する人で西村氏ともたびたびコラボをしている。そして、国民民主党とはそもそも小池新党が一瞬立ち上げた「希望の党」を前身とする政党である。
安倍晋三元首相を熱烈支持した「ネトウヨ」とか、アベを倒せ、野党は共闘と盛り上がったリベラルとは違う、「ネット政治」的なる層というものが確実に存在する。そのことについて、保守も、革新も、そして石丸市長待望論者も認識するべきではないだろうか。
細川→小池→石丸という流れ
リベラル派は小池知事を保守ととらえているが実は違う。2016年の初当選時、当時の自民党は「増田リポート」で知られる増田寛也(現日本郵政社長)を推薦し、小池氏と争った。そしてその前の舛添要一前知事は、ネトウヨから鬼のように叩かれまくったが実は舛添氏は自民党推薦だった。中央政治の保革対立の図式は都知事選には必ずしも当てはまらないのである。
そして舛添前知事の当選した2014年の都知事選、奇妙な現象があった。「左」は宇都宮健児弁護士を推したが、それとは別に政界をとうに引退して隠居生活をしていた細川護熙元首相が出馬したのだ。当時の政局とかを考えると全く奇妙な現象だった。細川氏はインターネットに全く疎そうな高齢者であるにもかかわらず、急にTwitterを始めたり、凝ったネット発信を主要候補者の中で最も積極的に行っていた。ジャーナリストでネットニュース配信の「オプエド」を主宰する上杉隆氏がブレーンだったとも言われている。
(Wiki)この10年かけて東京で築かれている潮流はネトウヨでもリベラルでもないネット政治的なものの拡大ではないか。細川氏は3位で敗れたが、小池氏は当時の政局の勢いに乗って当選している。小池氏初当選時は、市場移転問題などでテレビや新聞が小池氏に注目していた面もあるが、2020年の選挙ではマスメディアが小池氏に特に注目することもなかったものの、二戦目を勝ち抜くことに成功している。
神奈川県民の私にはなぜ小池なんかが再選するのか全く意味わからなかったが、今思えばそれはネット政治的な勢力が一定の影響を持つようになった結果だったのではないだろうか。
彼らは民主党の正規の継承者
X(旧Twitter)上で政治について言及する人はネトウヨとリベラルの二択に分けられがちだが、もう1つ「政局クラスタ」と呼ばれる人たちもいる。彼らはネトウヨを冷笑しているが、共産党へのアレルギー意識から左翼と一緒にされることも嫌っている。あえていえば国民民主党を支持するスノビストだ。
それは玉木氏や乙武氏や西村氏も良く出てくるアベマTV動画とか、オプエドとか、石丸市長の切り抜きと言った「動画で政治に触れる層」とも重なる。今東京都では、10年かけてこういう人たちが一定の政治勢力に膨れ上がっているのではないかと思われる。ちなみに細川元首相は民主党の支援も受けているし、玉木氏率いる国民民主党だって形式上は民主党の正規の継承政党である。小池知事が政界入りした最初の所属政党は、民主党のルーツである日本新党だった。その日本新党の創設者はほかならぬ細川元首相なのである。
ネトウヨは民主党を「左翼の牙城」ととらえて猛批判してきたし、左も「民主党政権はよかった」と回想しがちだが、私はそうではないと考える。民主党は左翼政党ではない。所属議員に旧社会党の流れを組んだ者が多くいるだけで、それを抜きにとらえれば既成政治からのゲームチェンジャーの集まりである。日本政治を支配し続けた自民党でもなければ、昭和の左翼の論理で凝り固まった社共系でもない、昨日まで存在しなかったルールをいきなり思いつき、感染症のように広め、あれよあれよと全部を捻じ曲げようとするやり方こそが、民主党そのものである。左からあれほど叩かれた「希望の党」騒動なんかも実に民主党的だった。
民主党という器は消えてなくなった。党内左派=旧社会党系は立憲民主党を立ち上げて分裂し、共産党との野党共闘を深め、右翼でも左翼でもない民主党的なる者たちは母屋を失う冬の時代を10年経験していた。しかしその間、彼らはネット空間を軸にそれらしい人たちと結びつき合い、じわじわ広がりつつあったということではないだろうか。
あるいは千葉県の熊谷俊人県知事だ。この人もかつて千葉市長選に若き市長候補者として民主党から出馬した時、界隈では「石丸現象」のようなムーブメントが起き、ネトウヨは敵とみなして演説妨害をやっていた。じゃあ左が熊谷氏を支持しているかというとそんなことはなく、維新的なネオリベ首長とみなされ批判されている。オモコロでシムシティをやったり、Twitterを活用しまくるなど、現職首長ながら面白ネット発信を重視している人物だ。
熊谷氏も石丸氏と同じ40代で市長から知事への転身者ではあるが、もう一人北海道の鈴木直道道知事の存在も欠かすことはできない。もともとは東京都職員から、財政破綻した夕張市の市長というまったく異例の経歴を持つ名物若者市長だった。道知事選こそ自民党推薦でたたかったが、最初の夕張市長選では自民・公明・みんな3党の推薦を受けた元代議士を打ち破るなど既成政治家に代わるゲームチェンジャーとして大いに注目された。
石丸氏がやろうとしていることは、熊谷・鈴木知事の道をなぞる行為であり、それを支持する一定の世論が東京には存在するのである。