多摩モノレール延伸はほんとうに必要か

 


 就任以来8年間なにも実績がないと言われる小池百合子東京都知事だが、あえて挙げるなら多摩モノレールの延伸政策がある。これまで終点は東大和市の上北台駅だったが、武蔵村山市内を経由して瑞穂町の箱根ヶ崎駅まで延ばすというものだ。長年の間構想として存在していたが、「多摩格差ゼロ」を掲げる小池都政のもと具体化にこぎつけることができた。


 上のポストでも指摘があるように、武蔵村山は市・区で唯一鉄道が存在しない。多摩地区における交通格差の解消策として住民に多くの利便性をもたらし、沿線活性化の起爆剤になるのではないかと期待されているようである。


 しかし私には、この延伸が本当に必要かという疑問しかない。モノレールは建設費用がとても高く人口密集地でなければ成り立たない乗り物だが、武蔵村山沿線は都内とはいえ田舎であるためペイできないのではないかという疑問である。

上北台駅前ですら畑だらけ


 延伸ルートを検証した動画を見れば現地がどのような場所かがわかるはずだ。まず上北台駅でさえ駅周辺が畑だらけである。そして当然のこと、遠くになればなるほど、新青梅街道沿いでさえ畑だらけになっていく。一般にモノレールがあるような「郊外の住宅密集地」の印象とは大きく異なる風景だ。

 上北台駅は1998年に開業し、四半世紀以上を経過している。都内のほかの地域であればこれくらい時間が経てばだいたいまわりは農地はとっくに消え、「駅前一等地」として建物で埋まっているはずだ。2008年に開業した足立区内の都営日暮里・舎人ライナー沿線も、それまでは孤立地域であったがもう畑はほとんどない。


 だが多摩モノレールの場合、すでにある終着駅でさえこのままだということは、その先に伸びしろはほとんどないということである。そうした採算性の乏しさが事業化されなかった理由だろうが、いまこれをつくっても都民の税金の無駄遣いに終わる可能性が高いのである。


 なぜ開発が進まないか。それは都心まで通勤時間がかかりすぎるからにほかならない。筆者は神奈川県の湘南の人間だが、東京と湘南を結ぶJR東海道線は平塚駅を境に利用者が一気に減り、沿線風景は住宅街から田舎に切り替わる。平塚がちょうど東京駅から片道1時間の限界だからだ。

通勤「1時間の壁」に収まらない

(Wiki)

 これと同じことは多摩地区にもいえる。モノレール延伸先の箱根ヶ崎駅はJR八高線の駅であるが、箱根ヶ崎から東京駅までは途中の八王子で中央線に乗り換え1時間24分もかかるという。これでは東京都心への通勤手段にはなりっこない。なので瑞穂町は市に昇格できないし、八高線は単線のままなのである。


 そして多摩都市モノレールに関しても、今ある終点の上北台駅から例えば手前の新宿駅までであっても、通勤ラッシュ時いには立川乗り換えで片道1時間をギリギリ越えてしまう。これが上北台駅前が畑だらけのままである理由だ。そこからさらに遠方であればより都心から遠のくことになる。


 多摩都市モノレールが成功したのは、立川市から多摩市にかけての都心通勤圏でかつタテ移動の路線が存在しない場所に走らせたからに他ならない。もともと沿線は密集地帯だったし、今までバスなどで都心行きの電車の駅に出ていた沿線民が、通勤時間を短縮することに成功したので支持されたのだ。


 いずれにせよモノレールは速度が遅く、単線の八高線よりも時間がかかるため、箱根ヶ崎駅の利用者がモノレールに切り替えることも見込めないので、この延伸は無駄に終わる可能性が高いのである。

やるなら西武球場に延伸せよ

 モノレールの終点が中途半端な場所で終わっているのは事実であるが、どうせ伸ばすのであればそのまま西武球場前までにすべきではないかという意見もある。私もこの意見に賛同だ。


 まず距離が3kmかからないくらいで済むので7km近い箱根ヶ崎延伸よりも費用を抑えることができる。また接続する西武球場前駅から池袋まで1時間通勤圏なので、ベッドタウンの範囲からぎりぎりこぼれたローカル線の箱根ヶ崎駅よりははるかに有力だ。


 それに加え、ベルーナドームで開催されるプロ野球や各種イベントでの輸送需要も期待できる。現状は西武線しかないため移動経路に乏しいが、モノレールが伸びてくれれば混雑緩和が期待され、立川方面からの行き来のルートも確保できる。多摩方面や、場合によっては神奈川県から来場するお客にとってもこっちの方がはるかに便利である。


 通勤利用のニーズが薄い以上、イベント輸送という大きな収入源の期待できる西武球場延伸の方が望ましい。延伸策は今からでも見直すべきではないだろうか。

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