「みどりの窓口潰し問題」の本質は地域特性無視だ!

 

 いま急速な勢いで駅の「みどりの窓口」の廃止ラッシュを続けているJR東日本。しかし混雑や混乱が起きていることから、廃止をいったんとりやめ一部には復活も検討するという。


 JRの窓口潰しには「えきねっと」による切符のネット販売の普及する中、将来的な人口減を見据えた合理化をする狙いがある。その方向性自体は私も正しいとは思う。しかし窓口閉鎖が性急すぎる。だいたいの駅では窓口を閉じるかわりに特急券や定期券を購入できる自動券売機を充実しているが、窓口だけ閉じて替わりの券売機を設置しない駅も多いし、障がい者対応など窓口でなければできないサービスもある。高齢者や外国人観光客などえきねっとを使えない人も多い。そうすると、最寄りの窓口が残る駅に客が殺到し、混雑が起きる。


 一連の問題の本質は駅のある地域性を無視し、十把一絡げに削減をしていることにある。私はこの姿勢こそ改めるべきだと強く考える。

小さな海老名駅の窓口がなぜ混むのか

(Wiki)

 筆者の住む神奈川県内でも窓口の混雑が顕著になっている。たとえば相模線の海老名駅では、1つしかない窓口に平日の昼間でも行列ができている。相模線は単線・4両編成の「神奈川のローカル線」で、海老名はターミナルとはいえ人口14万人の小さな市だ。だからこそ1つの窓口で十分というのがJRの感覚なのだろうが、明らかに足りていないのである。


 相模線でも2007年の北茅ヶ崎駅のみどりの窓口廃止以降、多くの駅でみどりの窓口や長距離乗車券・指定券などを発売する出札窓口が廃止された。これにより、沿線民が最寄のターミナルの海老名駅に集中するようになったが、理由はそれだけではない。


 海老名駅は県央を走る私鉄の乗り換えターミナル駅で、小田急では座間市や厚木市、相鉄では大和市方面からの来客もある。私鉄の駅には元々みどりの窓口は存在しないので、私鉄沿線民が新幹線の切符を買う時などは必然的に海老名駅に集まるようになるのだ。とくに相鉄の新横浜直通開始以降、このニーズは高まっている(余談だが新横浜駅さえも2007年にみどりの窓口を閉じている)。厚木市、大和市は20万都市で、そこに座間市を含めれば73万人の沿線人口がある。相模線沿線に加えて73万人分の需要をたった1つの窓口で裁けば、そりゃ混むのである。


 県央に土地勘がある人ならご承知だろうが、海老名には駅直結のショッピングモールが2つある。つまり、買い物ついでに海老名駅前に行く人は多いので、他市の私鉄沿線住民であっても気軽に行きやすい場所だ。だったら窓口環境を充実し、積極的に利用しやすい環境を作る方が「経営合理性」ではないか。JRからすれば自社が存在しない地域からお客を獲得する貴重な収入源でもあるのに、なぜ改善しないのか私は疑問符しかないのだ。

川越駅に窓口がない異常

(Wiki)

 それから川越駅でも2022年から窓口は廃止してしまっている。なぜ窓口がなくなったのかというとこちらもJR自体の需要が乏しいからだろう。川越にはJRのほかに私鉄2路線が存在していて、JR川越線はさきの相模線同様の単線路線だ。埼京線経由で都心直通こそしているものの、川越市民のメインの通勤路線は圧倒的に便利な私鉄になる。JRより私鉄優位なのは海老名市民と一緒だ。


 だが海老名と同様、私鉄沿線からの集約もある。そもそも埼玉県川越市は人口35万人。埼玉の有力ベッドタウンで決して小さな町ではなく、ここにみどりの窓口がないのはどうかしているとしか思えない。普段はJRに乗らない人だって東北新幹線に乗る時は川越線で大宮に出るのだ。


 それに加えて川越は「蔵の町」で知られる関東近郊の人気観光地である。インバウンドも盛んで、ジャパンレールパスを使ってJRで都心と行き来する外国人旅行者も多いはずだ。土地に不慣れでITにも疎いシニアの旅行者だって多い。ここに窓口がないのは狂気と言える。

地方もをなくす駅を明らかに間違えている

 こうした誤ったとしか思えない窓口廃止事例は地方でも目立つ。たとえば冬場はスキー客でにぎわう越後湯沢駅も上越新幹線停車駅にもかかわらず窓口を廃止してしまった。Xのポストにも指摘があるように、乗りなれていない旅行者ほど窓口での対応が重要なはずで、使いづらい端末操作を強いるのは酷なことである。


 これも数字だけの「利用実態」ありきでリストラを進めた結果であろう。湯沢町自体は人口8000人足らずの山の中の過疎地である。それでもかつて越後湯沢駅は北陸方面の特急接続駅だったが、2015年の北陸新幹線開業でその需要が減って一気に乗車人員を減らしたのも事実だ。最近の越後湯沢駅の1日乗車人員は2,859人(2022年)と、さっき言った相模線でいう北茅ヶ崎駅(2,691人)程度だ。北茅ヶ崎駅ではみどりの窓口は2007年に閉鎖しており、同規模の越後湯沢駅が窓口を設置し続けるのは過剰でムダだというわけである。


 だが北茅ヶ崎駅はそのうち2,045人が定期券利用の通勤路線であるのに対し、越後湯沢は2,566人が定期外。つまり外部からの旅行者が圧倒的多数を占めている。Suicaで電車に乗るので窓口の世話になることがほとんどない北茅ヶ崎駅利用者と、新幹線の切符購入がマストの越後湯沢駅利用者では、事情は大きく異なり、窓口を残置させる必要性は極めて高い。北茅ヶ崎から窓口を閉じてもお隣の茅ヶ崎駅に出ればどうにかなるが、地域の拠点駅の越後湯沢に窓口がなければどうすることもない。


 JRでは地方の新幹線や特急の停車駅でも窓口廃止を容赦なく続けているが、せめて観光需要の割合が大きい駅は窓口を残し、場合によっては現状よりも拡充するくらいであるべきではないか。秋田を代表する観光拠点の秋田新幹線の田沢湖駅すら窓口を閉じたという。秋田観光の需要で成り立っているような同新幹線の重要な駅に窓口がないのは、ディズニーランドがミステリーツアーの稼働率が低いからとシンデレラ城を潰すくらいありえないことだ。インバウンド需要はかつてより高まっているし、地方における鉄道利用活性化のためにも伸びしろがある駅は利用者を増やすための施策をとるべきである。

(Wiki)


 一方で、東北新幹線の終点の新青森駅はみどりの窓口が営業を続けている。私はこれには全く必要性を感じない。青森市は県庁所在地であるが、青森市内に用事がある場合いずれの乗客も同駅はただ乗り換えだけしてそこから奥羽本線で中心ターミナルの青森駅に出るのだから、新青森で乗り降りして窓口の世話になる機会など全く思いつかないのである。


 もっといえば青森市は越後湯沢のような有力な観光地ではないから、青森駅に窓口がある必要性だってないのである。新幹線開業前は東北本線・奥羽本線の2大幹線の結節点だったが東北本線は並行第三セクターに移管し、沿線の定期券の購入などで窓口の世話になる必要もなくなっている。だったら青森駅に通学定期購入シーズンのみ臨時で窓口を設置し、青森市内は窓口を全部潰していいのである。


 周知のように地方都市は車社会である。そのため、人口20万を超える「県庁所在地クラスの地方都市」だろうと、鉄道需要はわずかだ。JR東日本管内なら仙台圏くらいしか電車利用がある地域は見当たらない。大都市ではなく観光客もいない拠点駅こそ積極的に窓口を潰すべきではないかと筆者は強く考えている。具体例としては、山形駅、郡山駅、福島駅、高崎駅、前橋駅などが挙げられる。常磐線沿線なら水戸駅から窓口を潰す代わりに首都圏で利用者の多い北千住駅は復活させた方がいい。


 JRは「批判があるので窓口潰しを辞めます」といういい加減なやり方を改め、必要な駅には完全な形で窓口を再設置し、地方の中規模駅からの大削減にかじを切るべきなのだ。


 

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