日本の方向性に求められる「欧米か、アジアか」

  日本の世界競争力が過去最低の38位に落ちたという。欧米先進国に大きく差がついているだけでなく、首位のシンガポールを筆頭に香港、台湾、韓国などに抜かれている。SNSではこの「アジアに抜かれる日本」という厳しい現実が人々にショックを与えているようだ。


 このように欧米に大差をつけられアジアに抜かれるという構図は最近では一人当たりGDPをはじめに当たり前になっている。日本は明治維新以来「脱亜入欧」のもと近代化を進め、戦後はアメリカに追い付け追い越せで高度成長期やバブル経済を謳歌したが、欧米を見習うだけでなくアジアを重視するべきだという論者が散見されるようになっている。


 最近の日本では、先行するアジア企業を真似て日本の自動車メーカーもEV重視に切り替えるという論議があったり、文化の面でも韓国や中国の流行カルチャーが若者に広まるなど、「アジア化」の傾向がある。かつての日本の住宅は欧米同様に戸建て中心だったが、東京都心を筆頭にタワーマンションが乱立しているのも、タワマンが住まいの基本形となっているシンガポール、香港、台湾、韓国あたりにそっくりだ。小さい島すべてが大都市化したシンガポールや香港は土地不足でタワマンにせざるを得ないが、台湾や韓国では田舎でも田んぼの間にマンション群があったりする。日本の地方都市でもタワマン再開発が増えつつある


 しかしアジアを見習うことが必ずしも正しいかというと私は疑問がある。筆者はシンガポール以外ならアジア近隣地域に友人が大勢おり、何度も訪問経験もあるが、課題点が山積しているように感じるのも事実だ。

伸びるアジアは日本超えの超少子化状態

 先進国ワーストの少子化国家の日本。しかし、その出生率はシンガポール、香港、台湾、韓国と比べると実は高い。先日、東京の出生率が0.99に下落したことが大きな話題になったが、ソウルは0.55ともっと少ない。


 韓国の一極集中は日本の非ではない。神奈川や千葉までベッドタウンが広がる日本と違い、ソウル市境の金浦空港周辺は田んぼ地帯と「ソウル市一極集中」状態である。第二都市の釜山さえ人が減っている。ソウル市内の過密は東京以上だが、子育て環境は最悪で東京以上に子どもを見かけることはほとんどないのである。


 たいして、のんびりした東南アジアの発展途上国と言う感じのフィリピンやマレーシアは子どもが多い。これら地域には宗教上の理由もあるが、日本だって沖縄は出生率が突出して高いわけである。働き盛りが大勢いる今はまだいいが、過度な競争型の大都市型の社会は「国家百年の系」を考えれば滅びの道でしかないのも事実だ。


 筆者の韓国人の友人が口をそろえて言うのが、生れてからひたすら競争にさらされる生きづらさだ。子ども時代はのびのび遊ぶこともほとんどできず深夜まで勉強漬けにされ、科挙じみた受験風景で延世大学のような名門大学に入らなければ人生は敗北である。


 自殺率は日本以上。欧米諸国への留学生が多いのは、出羽の守が言うような「島国根性の日本人と違って意識が高いから」と言う理由ではなく、自国内で勝ち組になれなければ国を出ないと生きていけないからだ。韓国の若者はみんな子どもを作れる余裕はないし、我が子にこんな不幸な思いをさせたくないと思うのである。

(Wiki)

 どんなに経済が伸びていようが、次世代がいなければ今いる人たちが死ねばその国は終わってしまう。しかも今生きている人たちも自殺をするような社会は、果たして理想状態と言えるだろうか。


 それこそ10年ちょっと前、日本が(あるいは東京が)アジアの主要地域の勢いの裏での没落を目の当たりにしたころ、シンガポールの幸福度が148か国中最下位であると報じられたことがあった。超高層ビルに船を浮かべたような外観のマリーナベイ・サンズが開業し、SMAPのCMに使われたりして「シンガポールがいつの間にかすごいことになっているらしい」と日本人が意識した頃の話だ。


 もし日本が「アジア路線」をとれば、都心にだけアジア諸地域で見かけるようなよくある再開発ビルやタワマンが増え、バブル時代の二の舞みたいな成金文化が跋扈し、ますます子どもは減り、自殺者は増え、不幸な国民が増える。それが正しいとは私は思えないのである。

欧米がマシなのは移民社会だから

(Wiki)

 ちなみにG7で最も出生率が低い国は日本ではない。イタリアだという。去年2%を越えているのはフランスのみだ。イタリアとフランスの違いは何かというと移民である。サッカーフランス代表(画像)がほとんど海外県や旧植民地出身の黒人選手であるように、フランスは移民がとても多い国で、その子どもたちが生まれているのである。


 たいして、イタリアはヨーロッパ主要国でも最も移民に厳しい国で外国人労働者が永住・帰化して子どもを産み育てることが少ない。メローニ首相は「不法移民排斥」を公約に掲げていて、右傾化にますます拍車がかかっている。欧米諸国が人口が増え、子どもが多くいるのは移民を受け入れているからであり、そうしなければフランスもイタリアみたいな少子化国家になり、経済的にも没落しているのである。


 移民は旧植民地のみの話ではない。イギリスは1960年代から「英国病」と呼ばれる長期低迷にあったが、近年はEUの東欧拡大により移民労働力の取り込みで経済を回していた。ロンドンはEUの金融センターとして繁栄し、グローバリズムの影響で高い成長を遂げたのである。しかしもともといる自国民から「雇用を奪われている」という不満が広がり、右傾的な風潮が2016年のEU離脱を招いた。ヨーロッパに位置しながら、ヨーロッパを閉ざしたイギリスはEU離脱翌年の2017年にドイツにGDPで抜かれ、去年は旧植民地のインドにまで抜かれてしまった。


 イギリスを抜き日本を抜いたドイツとて好調とは言い難い。これまで移民を積極的に受け入れてきたことで伸びていたが、日本で言う団塊世代のようなベビーブーム世代の引退により深刻な人手不足が起きて移民でカバーできなくなっている。しかしさらに移民を入れれば、反移民感情を刺激し極右が躍進しかねない。となりのオランダでは反移民の極右を巻き込んだ政権が発足するなどしているから、影響がドイツに及ぶのは時間の問題である。


 さきのフランスもマクロン大統領の「破れかぶれ総崩れ」があったが、仮にルペン政権にでもなれば移民をシャットうアウトするようになり、出生率は一気に下がるだろう。「ヨーロッパが人が増えて経済的にも伸びていた」と言う背景にはこういう事情があることに日本人は気づくべきだ。

 日本人にとって忘れてはいけないのは、世界一の超大国は今も昔もアメリカだが、今のアメリカの数字上の繁栄は格差の上に成り立っているということだ。


 アメリカをリードする大企業と言えばEVでおなじみのテスラやGAFAのイメージだが、既存のアメ車メーカーは没落して久しい。フォードなどの御三家が本社を構え、自動車産業の都とされたデトロイトは戦後荒廃し、スラム化していることは多くの人が知る通りだ。


 このような既存のメーカーは、多くの安定雇用機会をもたらし、地元の人を豊かにして分厚い中流層を作ったが、GAFAは全世界中の地頭のある優秀な頭脳労働者を雇っても、多数派アメリカ国民を雇うことはない。カリフォルニアで反GAFA感情が高まっているのは、既存の地元民には全く恩恵がないのに、これらの企業が引き起こすインフレによる弊害ばかりを被り、長年住み慣れた地元を離れざるを得ない人も増えているからだ。


 このような「没落白人層」がトランプ前大統領の支持基盤となり、その再選を求める大きな原動力になってしまっている。しかしアメリカが鎖国化すれば、人口も経済も伸びなくなり、アメリカは中国にその存在を脅かされるわけである。







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