西日本で相次ぐ内部告発潰し

 


 ことし3月、兵庫県の職員が斎藤元彦県知事の「パワハラ」などを内部告発したところ、事実無根として懲戒処分されたことがあった。しかしメディアで大きく取り上げられた結果、最近になって知事側が再調査を決めたという。


 もちろん告発者の側が話を盛っている可能性はあるが、元幹部職員が告発文を肯定しているとカンテレが報じているなど議論の余地がある。もし仮に、本当に不正があったにもかかわらず、知事側が告発を一方的に否定して職員に処分を下していたとしたら、権力の横暴である。再調査の結果を待ちたい。


 このようなキナ臭いニュースが最近頻発している。和歌山市職員が公益通報を行ったのちに、処分された職員と同じフロアに配置されて自殺した事件が明るみになったほか。滋賀県の食品工場では告発者がその後の「報復人事」を訴え裁判になっている。

 また鹿児島県では警官が情報漏洩で逮捕された問題で、その情報が県警の不正を訴えるものだったと地元紙ガスクープしている。かりにこの不正が事実であったなら、公権力の不正を明るみにした正義が犯罪者扱いされる由々しき事態である。鹿児島県をめぐっては、県テニス協会の不正な会計処理を告発した元副理事が除名された問題も報じられたばかりである。


 兵庫、和歌山、滋賀、そして鹿児島。すべて西日本の出来事なのである。これは奇遇だろうか。私は西日本の地域性が事態を面倒にしているという風に考える。

モリカケサクラはすべて西日本


 「理不尽に加担されて現場の人間が潰される問題」として真っ先に思い浮かぶのが第二次安倍政権下の森友学園問題ではないか。学校法人への国有地の売却を巡り、文書の改ざんに関与させられた近畿財務局職員が自殺するという痛ましい事件だった。


 そもそも当時の首相夫人が名誉校長を務める小学校を作るために教育勅語を子どもたちに教え込むヘンテコな右翼趣味の学校法人に国有地がタダ同然で売却される異常事態である。何から何までイカれているのだが、しかるべき地位の人たちの意向ですべてが進み、下から「これはおかしい」と告発する動きはなく、不幸にも一人の職員が潰されてしまった。この森友学園問題の現場は大阪で、森友学園をめぐっては関西の保守政治家や関西ローカル政治番組でおなじみの論客たちが礼賛していた。


 ちなみに第二の森友として注目された加計学園問題も、安倍元首相と懇意の人物が経営する岡山の学校法人が愛媛に新しい学校を設置することの不透明な経緯が問題視されたが、渦中の人物はいずれも中四国地方の保守系政財界人だった。「桜を見る会」では安倍氏の地元の山口県から膨大な人物が参加したし、桜を見る会問題に次ぐ山口がらみの公金私物化として安倍麻生道路問題も挙げられていた。下関と北九州を結ぶ道路で、渡った先は安倍首相を支えた麻生太郎財務大臣(当時)の地元でもある。


 私は2012年に発足した第二次安倍政権以降の10年ちょっとの間で支配者のエゴが横行する縁故主義が蔓延し、西日本全体がその論理で腐敗したのではないかと考える。安倍首相を支えた二階俊博幹事長(当時)は和歌山の人であった。自民党の補完勢力の維新はもちろん大阪が地盤だ。日本の首都は東京にあり、人口や経済活動の殆どが東日本(中部地方より以東)でるのに、西日本ばかり縁故主義がまかり通ってオイシイ思いをする時代が長く続いていたのではないか。

不当な搾取構造のルーツは藩閥政府

 少数の支配集団が政治権力を私物化する構図は明治時代のを彷彿とする。安倍元首相は長州藩士の末裔であることを自画自賛していたし、麻生太郎の先祖は薩摩藩の大久保利通だ。そもそも自民党のルーツは長州藩士だった伊藤博文元首相の立憲政友会だから、「日本を取り戻す」と息巻いた安倍政権下で、日本が戦前のような縁故国家に先祖返りしたのではないかと私は危惧する。西日本の諸藩がすべてを切り盛りした「藩閥政府」の現代版だ。第二次安倍政権下では政権あげての明治150周年記念行事もあった。


 明治の日本は目覚ましい近代化を遂げたのも事実だが、その裏には民意の圧殺があった。筆者の両親の出身地は東北地方だが、たびたび引用する福島事件に発展した三島県令(知事)の会津道路建設や、尾去沢銅山事件は典型的な藩閥政治家の「東国植民地支配」だ。このような不当な少数権力の独裁構造が戦前の大日本帝国であり、ファシズムに走って戦争にボロ負けし、80年近くかけて民主主義社会をやっていたのが戦後日本だったわけだが、歪んだ利益構造が蔓延する西日本で末端がツブされる戦前回帰が進んでいるのではないか。官民を越えた「アベ化」である。


 しかし安倍元首相は暗殺されてもうこの世にいない。それでも最大派閥の安倍派は政界で大きな影響を保っていたが、裏金問題を理由に対立派閥の岸田政権化で岸田派もろとも解体され、状況は大きく変わっている。政権交代の可能性も現実味を帯びている。野党は目先の政局ではなく安倍政治=疑似藩閥政府の徹底清算を念頭に政治変革に取り組むべきだ。




 










 


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