JR北海道「特急の快速化」は自殺行為だ
(Wiki)
北海道で特急列車の快速化が懸念されている。JR北海道では旭川~網走を結ぶ「大雪」を来年のダイヤ改正で快速に格下げすることを検討していると地元紙北海道新聞が伝えたほか、札幌~室蘭を結ぶ「すずらん」(画像)についても同社社長が先の記者会見で「安くご利用というニーズが強いのであれば、特急でなくてもいいと思う」と見解を示したことが波紋を広げた。
JR北海道は慢性的な経営難が指摘されている。さかのぼること国鉄時代の1970年代から赤字ローカル線の廃線が続いているが、それでも札幌地区を含めた全路線が赤字だ。最近では幹線レベルの廃止も続き、特急が走る主要幹線でさえも「黄色線区」と呼ばれる単独では維持が困難なレベルになっている。大雪が走る石北本線や、すずらんが通る室蘭本線の一部走行区間も黄色線区だ。
今年度以降の設備投資計画においても、これらの特急車両の新型への置き換えの予定はない。よって鉄道ファンたちはこのまま快速に格下げされ、普通列車と同じロングシートの車両になるのではないかという強い危惧がある。
あー、すずらんと大雪の車両更新入って無いんだ
— chihatan (@chihatan4) June 19, 2024
だから快速化なのね... https://t.co/OGVWXjsGbf
北海道では全国の鉄道路線と同様、コロナ渦で大幅に乗客を減らしたものの、これらの特急はアフター・コロナでの利用回復率が乏しいという。3月に全車指定席化と割引の廃止を実施したところ利用は激減。当日に安価な自由席を買ってふらっと乗るような顧客を失ってしまった形だ。
高ければ乗らないなら特急料金不要の快速にすればいいのかというと、それは間違いだ。なぜなら快速化によってそのまま消えた特急は全国に幾らでもあるのだ。
快速化という死亡フラグ
(Wiki)JR九州では博多から熊本方面を結ぶ「有明」(画像)が熊本から先の区間で豊肥本線に乗り入れて周辺自治体まで直通していたが、2011年の九州新幹線の全線開業後は豊肥本線区間のみを快速の「豊肥ライナー」に格下げした。ところがこれはうまくいかず、2年後には普通列車になってしまった。
ほかにもJR東日本で奥羽本線の山形~秋田間を走った「こまくさ」は、1999年に山形新幹線が新庄まで開業することで区間が短縮化され快速化されたが、3年で廃止するなど、同様の例はいくらでもある。
いずれも新幹線に絡んだ話だが、JR北海道でも北海道新幹線の札幌延伸計画が進められている。これに伴い大部分が廃線となる函館本線の通称「山線」区間では、1986年まで「北海」と言う特急があったが、いまは快速「ニセコライナー」がわずか1日1往復と言う状態だ。このように特急快速化はさらなる本数削減の後、やがて廃線の末路に向かう「死亡フラグ」になっているのだ。
また、現状函館と札幌を結ぶ主要ルートの「海線」にあたる室蘭本線では、新幹線が札幌延伸すると札幌行き特急「北斗」が廃止される。すると残る特急はすずらんのみになるのだが、もしこのすずらんが快速になるのであれば、特急街道から一点して特急空白地となってしまい、苫小牧、登別、室蘭と札幌の鉄道アクセス環境は一気に悪化してしまう。
ちなみに北海道新幹線の計画上の終点は旭川とされているが、もし何十年後かの未来に旭川まで延伸しても、大雪がなければ道東方面の接続は取れないし、その頃には人口がもっと減っているので、主力の特急「オホーツク」も廃止されているだろう。道北を結ぶ「宗谷」もなくなっていて、宗谷本線自体が線路が剥がされている可能性もある。
(Wiki)これは矛盾である。JR北海道は、新幹線を札幌まで作れば仙台や首都圏方面の大都市間の移動需要を取り込んで黒字化が可能であると考えられているし、そのために必死に延伸工事をしているのに、接続する特急を廃止させ、ローカル線環境をどんどん殺す方向になっている。これではせっかく多くの人が札幌まで来れるようになっても、その恩恵が道内全体に行き届かない。
このままいけば、北海道のJRは札幌行きの新幹線と新千歳空港アクセスを含んだ札幌圏以外は全部死滅してしまう。それでは「JR札幌」である。もっと経営合理性だけを考えれば札幌地区とて在来線は赤字ならそこも売っぱらって新幹線と札幌の不動産事業だけやればいい。けどそれでは公共インフラを担う鉄道会社としてありえないことである。
国鉄を前身とするJRは金もうけ企業ではないのだから、赤字だから仕方ないではなくもっと特急を生かし、維持する方向に尽力するべきではないかと強く思うのだ。
安くてもロングシートでは長距離移動は無理
(Wiki)先述した快速こまくさの廃止の理由が居住性の悪さだという。新庄~秋田間約150km、2時間以上の道のりを通勤型ロングシートの車両で通していたというのだから、そりゃあ客離れが起きて当然である。
すずらんの札幌~室蘭間も136kmと同じレベルの走行距離である。大雪なら238kmにも及ぶから相当の長距離になる。筆者の地元を走る東海道線ではこの春前橋始発沼津行きの上野東京ライン直通ロングラン電車が誕生したが、その走行距離が241kmと同じレベルである。果たしてこれだけの長い区間、ロングシートで移動できるだろうか。青春18きっぷで旅慣れた乗り鉄マニアでもなければ無理だろう。
もちろん、すべての乗客が始発から終点まで乗るわけではないのだが、それでも北海道は面積が広大で内地の田舎と比べても都市間距離が離れている。こまくさ沿線なら新庄から湯沢が50km、湯沢~横手、横手~大仙がともに20km足らず、大仙から秋田市までが40kmという具合なので区間利用なら快速でもなんとかなりそうな場所もあるが、旭川から隣の「市」の北見までは180km離れているので、そうもいかない。北海道の都市間距離のスケール感では快速でしっくりくる区間は札幌周辺以外に存在しないのである。
(Wiki)私はこのような間違ったやり方は「サービス第一の私鉄と安易な合理化発想ありきのJRの方向性の違い」で横行するように思う。たとえば私鉄では、逆に快速を特急に格上げする動きがある。2017年に走行開始した東武特急「リバティ」は浅草から会津田島駅を3私鉄会社を直通して結び、東京都心と会津地方の新しい観光として注目された。2021年からは浅草行きの1本が単独運行になっている。
このリバティはもともとは快速電車だった。つまり191kmの長大な距離を通常の電車車両で走っていたのである。当時は東北本線の都心を走る列車も黒磯までであったし、常磐線のいわき行きが廃止された中、特急以外で都心から東北地方の福島県に至る唯一の電車だった。いまそれが特急に昇格したことで、リクライニング席で居住性が向上し人気を博しているという。
一方、JRでも国鉄時代より上野から会津若松を結ぶ特急「あいづ」があったものの1993年に廃止。その後は郡山で新幹線接続する形で郡山~会津若松間の「ビバあいづ」として短縮させたが2003年に快速に格下げされている。先述の各地と同様、新幹線ができれば短縮され、快速落ちするという流れだ。同じ会津間なのに、快速を特急に格上げした私鉄と、特急を快速に下げたJRとやっていることは真逆なのである。
求められる旅客開拓の姿勢
(Wiki)一方すずらんの停車駅には「ウポポイ」の最寄りの白老駅があるし、温泉地の登別もある。南千歳から新千歳空港の旅行者を運べるし、苫小牧ではフェリーで道内に出入りする旅行者もいるだろう。沿線自治体と連携し、このような旅行者を取り込むための施策が必要ではないか。
大雪の沿線に関しても並行する高速道路がまだ遠軽止まりであることから鉄道が顧客をつなぎ留める余地があるだろうし、オホーツクの空の玄関の女満別空港のすぐそばに線路が沿っていることも気になる。空港から1km近く離れた西女満別駅はいまでは何もない過疎の駅のようだが、もしこれを空港のすぐそばに移設して主要な航空便と特急で接続を調整すれば取り込みを図ることもできる。
女満別空港は新千歳や丘珠空港と結ぶ飛行機もあり、航路と特急は競合関係にあったが、そうではなく空港アクセス列車として協調し、地域民や旅行者を運べば廃線まっしぐらの現状を変えることもできるはずだろう。