「ただの中国の地方都市」になった香港から日本が反面教師とすべきこと
5年ぶりに香港来たら何もかも変わってて絶望してる。
— 水兵 (@mdvdt_f) June 18, 2024
これ、同じ場所なんだぜ…… pic.twitter.com/hhTSJ5JsEY
香港の町並みが味気なくなったと話題だ。名物のネオン看板だらけのカオスの路地が、たった5年で看板が消滅し激変してしまったのだ。それだけでなく人通りや店自体もスカスカになっており、GUやサークルKなどチェーン店が目に飛び込んでくる。ただの「東京モドキ」のような様相だ。
調べるとこのような看板は戦後イギリス統治下で急成長を遂げた中で急増したという。違法設置物ではあったが、自由な創意工夫性に富んでおり、全盛期の香港繁栄の証だった。違法は違法であるし、老朽化の問題もあったので2010年に規制が入った。しかし文化アイデンティティを守りたい地元の人々の反発もあって撤去は進まず、中国政府の支配強化後に一気に進んだという経緯のようだ。
風景はその土地にとって重要な構成要素である。香港は、政治的な事情もあって「安全や秩序」を優先することで香港らしい風景を消してしまったが、看板だけでなく文化も消えてしまった。世界中からの旅行者がいなくなり、地元民が利用するただのチェーン店街に変貌してしまったということである。いま香港では自由を求めて海外移住する人たちが増えているというが、たとえ自身が民主化運動に参加するなどして権力から迫害を受けるリスクがなくてもアイデンティティの喪失が、その土地に生きる意味を見失った面もあるのではないだろうか。
日本とておなじである。独自の景観があるからこそ、そこに住む人は地元を誇りにし続ける。桜島があるから鹿児島があり、東京タワーが見えることが港区民がそこに住む意味になっている。海辺に松林が広がる海岸線に湘南のアイデンティティがある。なのでスカイツリーを作ったから古い東京タワーは潰しますとはならないし、ロードサイドショップに切り替えた方が便利な店だらけで儲かっていいと国道134号線沿いの松林が伐採されることもない。そうした時点で、その場所はどこにでもある取り換え可能な土地になる。
するとそんな土地に生きている意味はなくなり、人々は「より安価で交通が便利な場所」に引っ越したり、より全国チェーンのハコが大きくて種類も多い無機質な街を目指したりするようになる。そんな場所は日本にも、世界中にもどこにでもあるので、世界中から外国人観光客も来ないし、わざわざほれ込んで移住しに来る人もいなくなる。日本中がそうなった時点で、日本は終わってしまうのである。
筆者は去年、メキシコ人の友人が来日したので東京を案内したのだが、滞在ホテルのある上野駅前を歩いていたら「アメ横」の賑わいに興味を示し、喜んで写真を撮っていた。日本人からすればただの時代遅れな商店街でしかないが、外国人にはあのガード下周辺に古びた建屋が並ぶ感じや、年季の入った看板なんかがいいのである。なのでアメ横はインバウンドでごった返している。もしバブル期にアメ横を再開発してただのショッピングモールや、オフィスビルや、あるいは自由が丘や丸の内のようなオシャレ系ショッピングストリートになっていたら誰も来ないだろう。そんな場所は世界中のどこにでもあるからどうでもいいのだ。
東京はいまコロナ開けの海外旅行で外国人観光客が殺到している。欧米系旅行者の多さなどを見るに私は香港に集まっていた訪問者が東京に流れているのではないかと考える。発展途上国で政治も危なっかしい大陸中国には不安があるが、極東で東洋的な雰囲気があってかつ現代先進国の高度な水準を兼ね備えた都市を楽しみたいなら、ほかに考えられる選択肢はソウルかシンガポールくらいである。その中では東京が円安で一番コスパがいい。
もちろん東京も木密対策は喫緊の課題で、地震大国もあって古くからの建物のゴチャゴチャした感じは防災上はない方が望ましいが、日本は全体主義の国ではないのだから、独自性を保ちながら合理性との調和を模索していくことが望ましいだろう。香港と逆を目指すべきなのだ。