東京の格差は西ではなく東にあり
(Wiki)
東京都知事選挙の真っ最中だ。現職の小池百合子都知事は多摩格差ゼロを公約に掲げ、歴代都政が放置していた多摩都市モノレールの延伸計画を具体化させた。また、対抗馬の蓮舫氏も多摩重視で、中央線沿線を中心に選挙活動を展開し、多摩地区の給食無償化や羽田空港アクセス鉄道の推進を掲げている。
多摩格差とは、都心中枢機能があって財政が豊かな東京23区と、戦後に農村からベッドタウンに切り替わった内陸部の格差のことである。たとえば基礎自治体の財政力もオフィス街が広がり法人税収のある特別区ほど優位で、多摩の市は貧乏だとされている。イデオロギーも真っ向対立する小池・蓮舫氏だが、多摩重視の姿勢は一致している。
しかしこれは平成時代以前の古い発想だと私は考える。戦後高度成長期以降の東京は、首都一極集中で都区部に集まった人たちが、多摩のニュータウンに引っ越して多摩が発展した。しかし近年の東京では多摩方面は低迷し、自治体によっては減少傾向にある。東京都自体の人口は著しく増加しているが、都区部の下町エリアが伸びている。
たとえば葛飾区は45万人、江東区は52万人、足立区や江戸川区にいたっては70万人近くと荒川沿線の区は政令指定都市並みの人口規模がある。下町で、「寅さん」の時代を引きずった昔ながらの町並みに古い共同体があるイメージの割には目覚ましい人口増加がある。さらには都県境を隔てた埼玉県川口市は60万人、千葉県市川市や松戸市が50万で、その先の船橋市は64万人だ。
しかし人口が多いから豊かな場所だということではない。東京都の基礎自治体の財政力ランキングで1位は武蔵野市。2位は都心の港区だが、3位府中市以下13位まで多摩の市町が続く。14位は渋谷区、20位は千代田区でそれ以外はすべて多摩と言うふうに、23区の「いいとこの区」よりも上位に多摩が食い込んでいる。一方葛飾区は50位と離島部並みだ。
自治体が弱いのは、住民の所得が低いからである。住民平均所得をみると武蔵野市民は540万だが、足立区は347万と離島自治体に近い。離島がハンデを抱えているのは言うまでもないが、都心と地続きで人口が多い都区部が貧しいというのは社会的な要因がある。
これらは平成以降の格差社会の結果である。かつて多摩のベッドタウンが開けたのは、高価な都心に住めない団塊世代が充実したマイホームを求めた結果だが、今の若い世代は多摩も高くて住めないのである。すると、家賃の安価な下町にばかり人が集まるようになる。下町さえ住めない人は川口や船橋を目指すということである。
江東5区大規模水害対策協議会
— 国土交通省 国総研 建築研究部 (@nilimarchi) May 26, 2024
によると
東京の #低地帯 に位置する #江東5区
墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区
大規模水害の可能性がある区域に
約250万人が居住
今までに経験したことがない
大規模な #水害 が発生すると#江東5区 のほとんどが水没し
2週間以上 浸水が引かないと予測… pic.twitter.com/RfGUBce8eO
「下町」と言う言葉からも分かるように、本来は大規模河川沿いで住むのに不向きの場所である。仮に大規模水害が発生した際にはほとんどが水没されると言われている。一方で、武蔵野の台地の上にある多摩にはそういう心配はなく、長い目で見れば住みよい環境なのだ。何かあったら住めなくなるといういわくつきの場所であるから、歴史的に敬遠され、下町に住まざるを得ない人たちだけになって治安が悪い問題もあった。
高度成長期で日本が右肩上がりの時代は人々が西を目指し、東京都内でありながら寅さんに描かれるような昔の日本の原風景が残ったが、平成以降の国家低迷ないし衰退の常態化では、食うために仕事のない地方から若者が東京に殺到し、されど住まいに困って下町に結集するようになっている。
東京の真の格差は西ではなく東にあるのだ。今さら選挙期間中の公約を変えられないことは承知しているが、こうした実情を踏まえ、都知事候補は下町人口偏重の是正を考えるべきではないか。ただでさえした街は木密が広がっている。もともと狭い街に、過去20年で10万人近く人口を増やした江戸川区のように人が殺到すると、より災害時のリスクになる。狭い道路は渋滞し、道幅を広げようにも密集地で用地買収も難しい。
であれば都で公営住宅を西側に整備する必要があるのではないか。不動産市場の原理にまかせれば安価な下町の物件ばかり人気を集めるが、たとえば団塊世代の高齢化で空き家となった多摩の団地をリノベーションして若年世代に優先的に安価に住めるようにするとか、空き家率全国1位の世田谷区の空き家を都で借り上げるとか、大胆で効果的な住宅政策を重視することで、人口分布の均衡化を図ることが必要だろう。