地方都市の地域輸送は10km圏が限界

 

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 去年開業の宇都宮ライトレールが大成功しているという。栃木県宇都宮市からとなりの芳賀町の工業団地までを結ぶ区間で、沿線はいわゆる郊外環境が広がっている。起点・終点どちらも通勤客の受け皿になっているので、その間に住む人たちを中心にまんべんなく乗られているわけである。


 ところで宇都宮駅から芳賀・高根沢工業団地駅までは路線距離約15km、直線距離だと10km圏になっている。これは宇都宮地区における鉄道の混雑する区間とほとんど一致する。おととしJRでは宇都宮地区の減便・減車を行い、東北本線・日光線で乗客が乗り込めない事態になったと言われているが、東北本線で得に混む宇都宮~宝積寺間が11km、日光線の宇都宮~鹿沼間が12kmほどだそうだ。


 減便・減車は利用客が少ないために効率化で行われたことだ。路線全体でみれば終点の黒磯や日光までの全体を見ればガラガラの区間が目立っていて、そこに長い編成の列車を何本も通しても空気輸送になってしまうので適正化を図ったところ、宇都宮地区のラッシュに耐えられなくなってしまったというわけである。


 ふと気づくと、地方都市はこのような10km圏前後に収まる輸送形態が定着している。例えば筆者は以前、福島駅から東北本線の下り列車に乗って藤田駅まで利用したことがあるが、福島で乗った客の多くは途中の伊達駅あたりで降りていた。沿線が田舎だから人が乗らないのかと思ったが、だったら伊達駅の利用者がガラガラでもいいはずだ。よく考えたら福島~藤田は直線で15kmもあるのだ。

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 一方、福島駅から山形県に向かって分岐する奥羽本線は一部の列車は庭坂駅が終点だという。庭坂駅があるのは福島市内で、そこから山形県境を挟む壮大な板谷峠越えがあるのだが、峠を越えず市内のたった2駅で完結してしまうのである。実は庭坂駅が10km圏の限界なのである。


 同様の傾向は青森にもいえる。青森県では旧東北本線の「青い森鉄道」が新駅を作ったり、高校や集落に近い場所に駅を移すことで活性化を図っているが、あくまでそれは青森駅から10km内での現象なのである。つまり地方都市であっても、中心駅から近い範囲であればやりようによっては伸びしろがあるものの、そうでない場所は過疎のままだということだ。


 宇都宮ライトレールを作った際に参考にした富山港線は、廃線となったJRローカル線をライトレールに転換したもので鉄道再生の成功例とされているが、終点の岩瀬浜駅から富山駅までは7km圏内と近いため、うまく行ったのは当然だった。ほかにもライトレール化を模索するローカル線が各地にあるが、いずれも具現化しないのは「10kmの壁」の問題があるからだろう。

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 我々首都圏に住んでいると感覚がマヒしてしまう。都心からおおむね50km圏であれば住宅密集地がずっと続いているからだ。上野東京ラインの場合、取手から平塚までは確実に大勢の乗客で満たされている。直線で90km、実際はもっと長い。取手や平塚を過ぎると車窓が一気に田舎になって、日中ともなればガラガラになる。


 しかし、それは東京首都圏が世界有数の巨大都市なだけで、実際には日本のほとんどの地方都市は10km前後が限界で、○○線を名乗りながらその地名の終点までは誰も乗らず、実質市内か隣町で完結するのが普通なのである。そしてそれはあくまで地方「都市」の話であり、おおむね人口20万程度くらいの自治体を軸とする都市圏がなければ成り立たない。人口10万台以下の独立した地方都市なら、中心駅でも誰も乗っていないし、伸びしろはないのである。


 筆者は先日オランダに行った。首都アムステルダム市内には高度なライトレール網があるが、いずれの系統も10km圏内に路線が収まる。またアムステルダムから同国南部を目指したところ、車窓が郊外からあっという間に畑地帯に切り替わったのだが、この郊外住宅地・産業地区の端っこが地図で確認すると都心から10km程度のようだ。その先は特別料金不要の快速列車でありながらかなりのスピードを出していて、車内の速度計が200kmに達していることには驚いてしまった。

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 つまり地方の鉄道路線は地域輸送は10kmレベル以外ではそもそも成立せず、他は徹底的に高速化を図るしか生き残るすべはないということである。日本の場合その役割は新幹線が担っているから、新幹線と並行する在来線は主な地方都市とその周辺以外は既に存在が破綻しているのである。


 以前触れたように海外には鈍行の集落ごとに停車するローカル線というものはなく、おとなりの韓国でも日本みたいなローカル線があったものの去年までに全廃している。日本の地方の鉄道路線は、貴重な税金をぶち込みながら世界のどの国でも成立困難な過疎地の地域輸送という無理な役回りをいい加減諦めるべきではないか。


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